酔った勢いで契約したレンタルダーリンと期間限定の夫婦生活始めます!
第九話 レンタルダーリン桐生葵にでろでろに溶かされる
「うううん」

喉を鳴らすように唸って何を悩んでいるかというと、クリスマスに葵さんに渡すプレゼントについてだ。
葵さんはついさっきお出かけのために家を出たところで、私はまだ家にいる。何を買うかある程度目星をつけてから、と思っているんだけど、そういえば葵さんについて私が知っていることってとっても少ないことに気づいた。
幼稚園の時は近所の大きな犬が怖くて吠えられる度に泣いていた。で、高校生くらいかな? その頃はヤンキーで。今はレンタルダーリンをしている。お料理がとっても上手でセクシーで格好良い。ときおり可愛い。……つまり謎が多すぎて好みがわからない。
ちょっとだけなら。少しだけなら部屋を物色しても良いかな? いや、物色って言い方が良くない。見て回るだけ。リサーチ。これは下調べだ。でも、葵さんのプライベートルームには入らない。
よし。まずは寝室。葵さんと毎日一緒に眠っている部屋だ。初めにベッドサイドの棚の中を確認する。
一段目。――開けてすぐ閉じた。見間違いだろうか。もう一度開けて見る。見間違いじゃなかった。夜の営みの時のエチケットが入っていた。
その場に崩れ落ちて両手で顔を覆って変なうめき声を上げながら悶える私は傍から見ればやばい奴だろう。だって、これはその、つまり。セッ――う、言えない。つまり、レンタルダーリンはそういうことも当然するわけで。レンタルダーリンをしている葵さんは、今までたくさんの人の相手を、していたって、ことで……。
ぐずりと鼻を鳴らして引き出しを戻した。この棚はもう見ない。決めた。自分にダメージを受けただけだった。この棚は封印だ。あと、寝室はまだまだ怪しいものがありそうだからやめよう。
次はやっぱりリビングだな。そう思って寝室を出たんだけど、リビングに入ってすぐの木製のコレクションケースに足の小指をぶつけてしまった。さらに頭の上に何か降ってきて当たったものだから足と頭にダブルのダメージだ。その場にうずくまって吠えた。
「いったーい!」なんて女らしからぬ声で吠えるところを葵さんに見られなくて本当に良かった。
涙目になりながら足元に視線を向ける。一体何が頭にぶつかったんだろう。固くて小さいもののような気がする。
私の背後――リビングのラグの上に転がっていたのはジッポライターだった。

――なんでこんなところに?

手を伸ばして拾って、壊してしまわないよう丁寧に蓋を開けると使用されている形跡がある。私のものじゃないから……これはきっと葵さんのものだ。でもどうしてコレクションケースの上から降ってきたんだろう。
コレクションケースを見上げてみる。その高さは私の頭のてっぺんから二十センチ以上高い。こうやってたまたま降ってこなかったらここにライターが置いてあるなんて気付かないくらいの高さだ。
気付かないくらいの高さ? いや、待てよ。ここに置いてあった理由がわかったかもしれない。名推理が思いついた!
葵さんは自分が煙草を吸っているってことを私に気付かれたくなかったんだ! だからライターを私の視界に入らない高い位置に置いて、私がいないときに吸っていた。でも部屋に煙草のにおいは無いから……私の前では絶対に吸わないようにしていたんだ。ベランダで吸っていたのか外で吸っていたのかはわからないけど。でも今日はライターを持って行ってないってことは吸うつもりはないってことかな。そんなにヘビースモーカーじゃないってことだ。
私の表情がにんまりとしたものになる。クリスマスのプレゼントが決まった。
コレクションケースの上に手を伸ばしてライターを元の位置に戻したあと、スマートフォンを取り出す。今から調べるのは、ジッポライターを扱うお店だ。足を運べるところにあると良いけど。まあ、なんとかなる! いや、なんとかしてみせる!

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