酔った勢いで契約したレンタルダーリンと期間限定の夫婦生活始めます!
もうすぐマンションが見えてくるぞ!
早くごはんが食べた過ぎて、葵さんに会いたくて足取りがふんふんと力強くなる。
夜の闇に紛れたマンションの前に人影があることに気づいて、ちょっとだけ警戒する。もしかして不審者だろうか? このあいだ通り魔に遭遇したばかりだから油断ならない。
ゆっくりゆっくり近づいて、その人の姿が暗闇の中でぼんやり明らかになった。葵さんだ。向こうも近づいてきたのが私だとわかったんだろう。大きく息をのんだかと思うと、足早に近づいて私の両肩を掴んだ。

「どこにッ――」
「え?」

叫ぶような声。それと、肩を掴む力の強さに思いっきり動揺してしまう。その様子が伝わったようで、葵さんは自分を落ち着けるように深呼吸すると、深くゆったりと言葉を続ける。

「どこに行ってたの。帰ってきたら君がいないし。どこかに出かけるっていうメモも、スマホにメッセージも入ってなくて」
「あ……」
「こんな時間になっても、帰ってこないし。本当に、心配、して」

葵さんが私を腕の中に閉じ込める。身体がぴったりと密着する抱きしめ方だ。葵さんの体温とか匂いとかが近くて、くらくらする。頭がパニックになっていたけれど、謝らなくてはいけないことは確かだったのでか細い声で謝罪をしたら、余計にきつく抱きしめられてしまった。

「おでかけ、してて。葵さんに渡す、クリスマスプレゼントを探して、ちょっと遠くまで行ってて」

ぴくりとほんのわずかに跳ねた大きな身体に、遠慮がちに腕を回してみた。

「道に迷ったり、スマホの充電が切れたりして……それで、遅くなって、連絡ができなくて」
「……」
「ご、ごめんなさい」

呆れられてしまうかもしれない。面倒くさい女だなって思われてしまうかもしれない。途端に怖くなって声が涙声になってしまった。
私はまだ、葵さんと一緒にいたいから。そんな思いが彼の服を掴む指先にこもる。
ああ、今気づいた。こんなに寒いのに彼はコートを着ていない。そんな間もなく慌てて外に出て、ここでずっと私を待っていたんだ。心配して、何かあったんじゃないかって思って落ち着かないまま。
それを理解したらもうダメだった。葵さんの優しさに対して、涙もろい私は嬉しくて泣いてしまう。

「絶対もうしません」
「君が無事に帰ってきてくれてよかった。よしよし。泣かないで、君はすぐに泣いちゃうんだから」
「葵さんが好きすぎて泣いてるの」
「はは、全くもう。君って人は」

少しだけ身体を離した葵さんは私の鼻先を指先でとんとつつく。そしてまた顔を近づけて、私の耳の辺りに頬ずりした。

「本当に、君は可愛い子だね」

柔らかでとろとろに甘く、私の身体がふにゃふにゃしちゃうような声色で囁かれる。何かを噛み締めて、声にのせて吐き出したみたいな感じの言葉だった。

「俺に渡すプレゼントを買いに行ってくれたの?」
「うん」
「こんなに遅くなるほどだから、ずいぶん遠くまで探しに行ってくれたんだね」
「道に迷ったから、余計に遅くなっちゃって」
「うん。俺のために頑張ってくれてありがとう。プレゼント、大切にするよ」
「ふふ、まだ渡してないのに」
「君からのプレゼントだからね。絶対に大切にするよ」
「あはは、嬉しい~!」

堪らなくなって、葵さんにむぎゅううと抱き着けば葵さんはおかしそうに笑って受け止めてくれる。
マンションの前でこんな風にしているなんて、他の人に迷惑がられるだろうけど今は誰も見ていないからきっと大丈夫だ。

「葵さん、すき。だいすき」
「うん。俺も君が大好きだ」
「えへへ、幸せだぁ」

君が幸せなら俺も幸せだよ。って、葵さんがはにかんで言うから、表情がでろでろに溶けちゃったんじゃないかってくらい緩んでしまった。
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