酔った勢いで契約したレンタルダーリンと期間限定の夫婦生活始めます!
精神的に蘇生するまでちょっと時間がかかった私に気を悪くした様子もなく、頃合いを見計らって声をかけた彼は家の中を案内してくれた。

「ここが夫婦の寝室だ。寝るときは一緒にね。――ここがリビングダイニング。向こうがキッチン。けっこう立派なキッチンだろう? ――ここが君のウォークインクローゼットだ。服はもう用意してあるから好きなものを着てね。で、向こうが」
「待ってください。ちょっと待って」
「なあに?」
「もしかして……今日から私、ここに住む、とかですか?」
「当たり前だろう。ここは俺と君の愛の巣なんだから」

愛の巣。もう一度言おう、愛の巣。
流れでここまで来ちゃったけどレンタルダーリンって本当に夫婦生活するサービスなの!? 酔っぱらった私いったいいくら払ったの!? 家もめっちゃくちゃ広いし。窓から見た外は高い位置にあるし。タワーマンションかな? もしかして私、貯金全部使っちゃったのかな?
悟りを開いてしまうくらい私の心は逆に穏やかになっていく。
ああ、もう、いくら払ったかわからないけど……期間限定の夫婦生活が終わったあとは貧乏生活まっしぐらだろうけど……お金を払ってしまったんだから楽しんでやろう……。貴重な体験をしているということで……プラスに考えよう。それにこんな国宝級イケメンが私の旦那さん(仮)だなんていう奇跡は楽しまなきゃ損だ。

「よし、部屋の案内も済んだし。朝ごはんにしようか。俺が作るから座ってて」
「え、桐生さんが作るんですか?」
「こう見えて料理が趣味なんだ」
「へえ~! 桐生さんが作った料理……楽しみに期待して待ってますね!」

リビングダイニングに戻りながらお話していると、桐生さんは、ぱっと私の方を振り向いて右手を伸ばした。口元に柔らかな笑みを浮かべて、その黒色の瞳に慈しみを浮かべて「こーら」なんて言いながら私の唇を人差し指で、とん、とたたく。

「君も桐生なんだから、桐生さんって呼ばないで。葵って呼んでくれ」

あ、私、爆散した。
確かに身体がはじけ飛んだ衝撃がある。いや、感覚だけで実際ははじけ飛んでないんだけど。
その言葉も、仕草も、行動も。全部。似合いすぎて逆に恐ろしい。こんなことを自然にやってのけてしまう人がいるのか。
触れられた唇が熱い気がする。いや、唇だけじゃない。顔も、身体も、かっかと熱を持っている。

「わ、わたしの」
「ん?」
「私の唇はありますか? 溶けてません? 触れられたところが異常に熱い気がします」
「ふっ、はは。俺の指はそんなに危険じゃないよ。君をたくさん愛してあげるための指だ」

あ、あ、あああああ! ってまた叫んだら、彼がおなかを抱えて笑ったから確信する。この人、私の反応がツボに入ったと見える。
そりゃあ叫んでしまうよ。国宝級イケメンの甘い言葉に甘い声。甘い仕草。あと、たまに見せる無邪気な笑い方。この人は天才的に格好良い人だと思った。
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