酔った勢いで契約したレンタルダーリンと期間限定の夫婦生活始めます!
お買い物は一緒に行こうね。そう誘われたのでお互い支度をしてリビングに戻って来た。
支度をするときに私専用のクローゼットだという部屋を覗いたら、ずらああっと音が聞こえてくるんじゃないかってくらいの服が用意されていた。しかも私の趣味や好みをばっちり抑えたラインナップだった。レンタルダーリンを運営する会社に私は一体どれほどの情報を渡したのか、契約したときの記憶さえないのでわからない。
次からお酒を飲むときは気を付けよう、なんて考えていると、お昼に放送している情報番組を眺めていた葵さんが突然「あ」と小さく声を漏らす。
アナウンサーの男性が言うには、通り魔が出たらしい。犯人の特徴や現在も逃走中だということも報道される。このニュースに何か気になることがあったんだろうか。
「うちの近くだね」
「え!」
「まあすぐに捕まると思うから大丈夫だよ」
こ、このマンションがどこに建っているのかすら私は知らないけれど、もしかして治安が悪いところだったりして……?
ちょっと怯えたのが葵さんに伝わったようで、彼は安心させるようにふわっと微笑むとまた私の頭をぽんぽんと撫でた。それだけで不安が吹き飛んだ気がするものだから、この人は魔法使いか何かなのかと思った。
「さあ、行こうか。せっかく君と行くから歩いて行きたいんだけど、いい?」
「大丈夫です!」
歩いてとなると近所の様子とかもきちんと見られるからありがたい。
玄関に向かった葵さんに続いて行けば、靴箱の中にまで私の好みのものがずらっと並んでいて、ぎょっとしてしまった。そして確信する。私は将来のための貯金を使ったんだな、と。
老後……その文字がどーんと頭にのしかかったけれど、実はちょっと葵さんとの生活が楽しいものになるかもしれないと思い始めていたから「ええい! やってしまえ!」と暗いことを考えるのをやめた。
楽しんだ者勝ちだ。私は葵さんとの期間限定の夫婦生活を楽しむ! それでよし!
外に出た瞬間に、自然な動作で私の手を握った葵さんがきらきら輝いて見えたのは……きっと気のせいじゃない。
マンションの近所はごく一般的な住宅街だった。危険人物が出てきそうな道もなく、明るく開けたイメージのほのぼのとした場所だ。近くに幼稚園があって元気に子供たちが遊んでいるのが見える。
すれ違ったおばあさんが葵さんを見て「こんにちは~」と挨拶をして、葵さんも笑顔で挨拶を返していた。知り合いですかと尋ねたところ初めて会った人だったらしく、初めて会った人からの挨拶にもきちんと応えるところから葵さんの人柄が垣間見えた気がした。
スーパーはマンションのすぐ近くにあって、店内は品ぞろえもとても良かった。二人で並んで歩いてお買い物をするときの葵さんの会話の内容や態度が本当に奥さんにするもので、変に錯覚してしまいそうになる。
これはレンタルダーリンだ。これはレンタルダーリン。疑似体験。そう自分に言い聞かせておかないと、はまったら抜け出せなくなるやつだ。
「葵さんはどうしてレンタルダーリンっていうお仕事をしているんですか?」
帰り道、荷物を半分こして手を繋いで歩いていたときにふとした疑問をぶつけてみた。葵さんが、するりと私と繋がった手を放す。もしかしていけないことを聞いてしまったのかもしれないと少し焦っていると、その手を私の口元に持って行く。人差し指を立てて、今日の朝にされたように、とん、と優しくたたかれて。
「だぁめ、だよ。夫婦なんだから。敬語は無しだ」
「ぅ、ぐうううう唇が爆発したああああ!」
突然の爆弾に私の唇が溶けるどころか爆発したように熱くなる。今の仕草で「だぁめ、だよ」はダメだ! 聞きたかったことが爆風でお空の彼方に吹き飛んでしまった。
葵さんは、ふっと吹き出して笑っている。また私の反応がツボに入ったんだろう。
「うう、ずるい。葵さんずるいです」
「次、敬語を使ったら身体のどこかにキスをしようか」
「どこか!? も、もう使わない!」
どこかにキスされるたびにその箇所が爆発するくらいなら敬語をやめようと決意したのだった。
支度をするときに私専用のクローゼットだという部屋を覗いたら、ずらああっと音が聞こえてくるんじゃないかってくらいの服が用意されていた。しかも私の趣味や好みをばっちり抑えたラインナップだった。レンタルダーリンを運営する会社に私は一体どれほどの情報を渡したのか、契約したときの記憶さえないのでわからない。
次からお酒を飲むときは気を付けよう、なんて考えていると、お昼に放送している情報番組を眺めていた葵さんが突然「あ」と小さく声を漏らす。
アナウンサーの男性が言うには、通り魔が出たらしい。犯人の特徴や現在も逃走中だということも報道される。このニュースに何か気になることがあったんだろうか。
「うちの近くだね」
「え!」
「まあすぐに捕まると思うから大丈夫だよ」
こ、このマンションがどこに建っているのかすら私は知らないけれど、もしかして治安が悪いところだったりして……?
ちょっと怯えたのが葵さんに伝わったようで、彼は安心させるようにふわっと微笑むとまた私の頭をぽんぽんと撫でた。それだけで不安が吹き飛んだ気がするものだから、この人は魔法使いか何かなのかと思った。
「さあ、行こうか。せっかく君と行くから歩いて行きたいんだけど、いい?」
「大丈夫です!」
歩いてとなると近所の様子とかもきちんと見られるからありがたい。
玄関に向かった葵さんに続いて行けば、靴箱の中にまで私の好みのものがずらっと並んでいて、ぎょっとしてしまった。そして確信する。私は将来のための貯金を使ったんだな、と。
老後……その文字がどーんと頭にのしかかったけれど、実はちょっと葵さんとの生活が楽しいものになるかもしれないと思い始めていたから「ええい! やってしまえ!」と暗いことを考えるのをやめた。
楽しんだ者勝ちだ。私は葵さんとの期間限定の夫婦生活を楽しむ! それでよし!
外に出た瞬間に、自然な動作で私の手を握った葵さんがきらきら輝いて見えたのは……きっと気のせいじゃない。
マンションの近所はごく一般的な住宅街だった。危険人物が出てきそうな道もなく、明るく開けたイメージのほのぼのとした場所だ。近くに幼稚園があって元気に子供たちが遊んでいるのが見える。
すれ違ったおばあさんが葵さんを見て「こんにちは~」と挨拶をして、葵さんも笑顔で挨拶を返していた。知り合いですかと尋ねたところ初めて会った人だったらしく、初めて会った人からの挨拶にもきちんと応えるところから葵さんの人柄が垣間見えた気がした。
スーパーはマンションのすぐ近くにあって、店内は品ぞろえもとても良かった。二人で並んで歩いてお買い物をするときの葵さんの会話の内容や態度が本当に奥さんにするもので、変に錯覚してしまいそうになる。
これはレンタルダーリンだ。これはレンタルダーリン。疑似体験。そう自分に言い聞かせておかないと、はまったら抜け出せなくなるやつだ。
「葵さんはどうしてレンタルダーリンっていうお仕事をしているんですか?」
帰り道、荷物を半分こして手を繋いで歩いていたときにふとした疑問をぶつけてみた。葵さんが、するりと私と繋がった手を放す。もしかしていけないことを聞いてしまったのかもしれないと少し焦っていると、その手を私の口元に持って行く。人差し指を立てて、今日の朝にされたように、とん、と優しくたたかれて。
「だぁめ、だよ。夫婦なんだから。敬語は無しだ」
「ぅ、ぐうううう唇が爆発したああああ!」
突然の爆弾に私の唇が溶けるどころか爆発したように熱くなる。今の仕草で「だぁめ、だよ」はダメだ! 聞きたかったことが爆風でお空の彼方に吹き飛んでしまった。
葵さんは、ふっと吹き出して笑っている。また私の反応がツボに入ったんだろう。
「うう、ずるい。葵さんずるいです」
「次、敬語を使ったら身体のどこかにキスをしようか」
「どこか!? も、もう使わない!」
どこかにキスされるたびにその箇所が爆発するくらいなら敬語をやめようと決意したのだった。