私が聖女でヒロインです!?いいえ、私はモブZ希望します!
「待って」

ビクリ、彼の言葉に私は体を強ばらせた。

「···ごめんね。驚かせるつもりはなかったんだ」

静かな衣擦れの音と、パタンと本を閉じる音。

さくさくと草を踏みながら私に近づいて来る足音に、私はゆっくりと振り向くと、すぐ近くに彼がいた。

まだ少しだけ冷たさを残す風が、彼の髪を揺らした。

整った顔立ちと、スっと伸びた背筋に柔らかな少し長めの髪。

この乙女ゲームのシークレットの攻略キャラクター、いや、今は現実に存在する彼は、帝国から留学中のギルベルト・ヒルデスハイム。

ヒルデスハイム帝国、王位継承者第2の帝国の皇子である。

そんな彼がどうして、私を?

「さっき、鐘の音が鳴ったね。門を潜った子を見かけなかったかい?」

ドクリ、と心臓が跳ねた。

「申し訳ありません···私、知らなくて」

あぁ、なるほど。

聖女に会いたいと。

ジリジリと向けらる視線に後ずさる。

私には目的があるんだ。

この学園では目立たず、騒がず、繋がるべき存在が繋がるように、大人しく過ごして卒業したら、スローライフを送ると言う壮大な夢が!

嘘をついてごめんなさいと心の中で謝罪した。
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