あんなに私を嫌っていたのに、記憶を失った婚約者から溺愛されて困惑しています
 覚醒したファロールに僕は逆に囚われた。同時に偽の人格は完膚なきまでに破壊された。その衝撃かファロールは一時的に「オーランド」としての全ての記憶を失った。
 後々破壊した偽人格の破片の記憶からファロールは情報を拾っていたようだったけれど。

「……ゼル・ディガン」

 ファロールの目は僕への怒りと憎しみで燃え滾ってた。でもやっぱり甘いところは変わらないんだな。ファロールは結局数日で僕をアリエノールの元へ返した。
 アリエノールは凄く喜んでくれた。僕は本当に嬉しかった。

 その笑顔を見つめながら君の居ない千年を思った。それは酷く孤独で空虚で惨めなものだった。
 今度こそ君を守る。そう心に固く誓っていたのに……
 僕の本質は破壊。愛すれば愛するほど壊したくて堪らなくなる。ねえ、君を守りたいのにやっぱり僕はこうなるんだ。ごめんねアリエノール、僕は──

「逃さないわよゼル!」

 アリエノールが僕の翼を強く掴んだ。

『痛いよアリエノール』
「あなたの過去や思いがさっき一気に頭に流れ込んできたの。私にしたことは今はいいわ。でも……オーリー様にはちゃんと謝って! そしてしっかり罰を受けて」
『あいつ……生きてるの?』
「……危険な状態は脱したそうよ。私は暫く王宮に留まるわ。ゼル、勝手に何処かに消えるなんて絶対に赦さないから!」
『分かった……約束するよアリエノール』

 アリエノールはうん、と頷くとブチっと僕の羽を1本毟った。

『痛っ!』
「オーリー様はその何倍も痛かったのよ! あなたは破壊されるものの痛みも知りなさい!」

 破壊されるものの痛み? それにはノエルも含まれる? ノエル、痛かった? 怖かった? 一瞬で君は──

「ゼル……」

 アリエノールがハンカチで僕の顔を拭った。その時初めて僕は泣いてることに気付いた。

「精霊と人間は在り方が違うけれど、通じ合える心はあるのだと信じたいわ……ゼル、ノエルはとっくにあなたを赦してる」

 微笑するアリエノールに縋り付いて僕は泣いた。君はいつだって僕のものじゃなかったのに……僕は君が大好きで、独り占めしたくて堪らなかった。

 ファロールがどんな罰を僕に下しても、僕は逃げずにそれをきちんと受け止めるよ。
 愚かな僕は又同じ過ちを繰り返すところだった。君を失った千年を思えば耐えられないことじゃなかったのに……ごめんねノエル、そしてアリエノール。

 僕の罪は……君を愛し過ぎてしまったこと──
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