あんなに私を嫌っていたのに、記憶を失った婚約者から溺愛されて困惑しています
『……僕は謝らないよ』

 それからきっちり3日後、アリエノールに促されてか嫌々ゼルがオーランドの元を訪れた。

「咄嗟に防御できなかったから大事になってしまったな。まあお前の怒りはこれで治めてくれないか?」
『は? 何言ってんの? お前これから僕に罰を与えるんでしょ?』
「罰ね……烏のままならお前悪さできないしそれでいいよ」
『そんな事したら僕は今まで通りアリエノールの側に居るよ』
「俺としては不本意だがアリーがそれを望んでるからな。お前みたいな危ない存在は側で監視してないと心配だってさ」
『お前、本当は僕のこと消したいんだろ?』

 オーランドはふっと微笑を浮かべた。

「ファロールは創造の精霊。お前とファロールは表裏の存在だ。どんなに嫌おうと合わせ鏡のようなもの。ファロールにはお前のことが良く分かっていた。消したいなど思ったことはない。憎んだことはあるけど、な」

 ゼルは無表情のままオーランドを見詰めていた。

『僕は……もう大事なものを壊したくない。でも本能だから逃れられない。お前なら今僕が考えてることも分かるんだろ?』
「……ああ、それで良いんだな?」
『お前は昔からくどいんだよ』
「慎重だと言って欲しいな」

 やれやれとオーランドは肩を竦めた。

「俺が側に居れない時は必ずアリーを守れ。それが出来なかったら今度こそ本当に赦さない」
『そのしつこさとくどさで精々アリエノールに嫌われないようにね』

 くくっと悪役のように笑うゼルに、オーランドはピクリと片眉を吊り上げた。

「……忠告痛み入る」

 溜め息と共にオーランドの体が眩い金に包まれた。ゼルの破壊の力が光の中心にみるみる飲み込まれてゆく。
 ゼルの輪郭は徐々に薄れて掻き消えた。後にはヒラリと1枚の黒羽がオーランドの目の前に舞い落ちた。
 オーランドはそれを摘み上げてじっと眺める。

「ファロールはいつもお前には甘かったんだよな」

 オーランドはファロールの半身とも呼ぶべきゼルを思った。大切だけれど憎くて堪らない存在。それがファロールにとってのゼル。だが自分はファロールではない。だからこそファロールができなかった事を為せたのだろう。

「流石に疲れたな……」

 オーランドはベッドに倒れ込むと気を失うように眠りに落ちた。
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