あんなに私を嫌っていたのに、記憶を失った婚約者から溺愛されて困惑しています
 オーランドの回復は医師が驚くほどに早かった。アリエノールの献身的介護の賜物だと医師の報を受け、王や王妃までもがアリエノールに感謝した。
 山のような褒賞は固辞したものの、王妃からいずれ娘になるあなたへ、と下賜された豪奢なネックレスだけは有り難く頂戴した。

 今日アリエノールはそれを身に付けていた。オーランドの快気祝いを兼ねた小規模な夜会。王と王妃への挨拶を済ませると、オーランドはアリエノールを人気のない中庭へエスコートした。

「アリー、今日の美しさも眩いばかりだね」

 オーランドの熱く潤んだ眼差し──最近見慣れてきたとはいえ、気恥ずかしさにアリエノールは俯いた。

「お体のほうは大事ありませんか?」
「ああ、君のお陰でもうすっかり」

 オーランドは悪戯っぽく片目を瞑った。アリエノールはホッと表情を緩める。

「良かったです……あなたが目覚めるまで生きた心地がしませんでした」
「アリー……」
「私……ごめんなさい、やっと分かりました。あなたのことが好きなのだと……」

 オーランドは目を見開いて食い入るようにアリエノールを見詰めていた。

「オーリー様?」
「……聞き違いじゃないよな?」
「はい、あなたが好きだと申しました」

 オーランドの尋常ならざる反応に、アリエノールは困ったように笑う。

「ああ……アリー!」

 気付いた時にはオーランドの大きな腕にすっぽりと囲い込まれていた。

「好きだ、前世から今も変わらず……大好きだ……」

 耳元で熱っぽく囁かれる言葉に、アリエノールの胸がドクドクと早鐘を打つ。
 アリエノールはおずおずとオーランドの背に腕を回した。

「私も……好きです、オーリー様」

 一度口にすれば思いは溢れるようだった。ふと以前夢で見たノエルの心情が思い出された。もしかしたら……とアリエノールは思う。
 意固地でもどかしいアリエノールの背を、あの時ノエルが押してくれたのかもしれない、と。

「アリー」

 オーランドの長い指がアリエノールの顎を捉えて上向かせる。今は大好きで堪らなくなった空色の瞳とかち合った。綺麗、と見惚れているうちに、アリエノールはオーランドに口付けられていた。
 ビックリして咄嗟に離れようとするけれど、オーランドの腕がそれを許さない。口付けが徐々に深いものになるにつれて、アリエノールの思考は甘く溶かされていった。

「可愛いアリー……」

 漸く唇が離れたと思ったら、また直ぐに口付けられる。延々と続く口付けは、アリエノールがくたりと力をなくすまで続けられたのだった──
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