あんなに私を嫌っていたのに、記憶を失った婚約者から溺愛されて困惑しています
「もう、信じられないわ!」
「ふふ、アリーったらマリアに久々会えたというのに早速惚気?」

 おどけたように笑うターシャにアリエノールはムッと唇を尖らせた。

「惚気なんかじゃないわ! オーリー……オーランド様は私をいじめたいのじゃないかしら」

 先日の夜会で初めて気持ちを通わせた途端、キスで腰砕けにされた事をアリエノールは怒っていた。
 そんなアリエノールの様子を王太子妃マリアは微笑ましげに見ていた。
 マリアは今年初めての懐妊が分かって以降つわりが酷く、長らく公の場にも出られず、面会すら許されなかった。
 漸く医師の許可を得て、直ぐにアリエノールとターシャを呼び寄せた。マリアにとっても二人は血の繋がり以上に大切な存在だったのだ。

「どうなる事かと思っていたけれど、収まるところに収まった様で安心したわ、アリー」

 ふんわりと穏やかに微笑むマリアに、アリエノールは怒気も萎んで苦笑した。

「心配かけてごめんねマリア。手紙にも書いたけれど色々と行き違い……のようなものがあって……今はそれなりに上手くいっていると思うわ」
「それなりどころか熱々じゃないの。見てるこっちが恥ずかしくなっちゃうわ」
「もうターシャ!」

 アリエノールとターシャのやり取りを、マリアは微笑ましく見詰めていた。

「ターシャ、あまりアリーをからかってはダメよ。意固地になってまた拗れたらオーランド殿下に恨まれてしまうわ」

 見兼ねたマリアが優しく嗜めると、ターシャはべっと舌を出した。

「はぁい。ついアリーの反応が面白くって……これからは程々にするわ」
「もうターシャのバカ!」
「ふふ、アリーもターシャには口で敵わないのね」

 その日一日王太子妃の私室からは笑い声が絶えなかった。顔を見にきた王太子も遠慮して立ち去った程だったとかなんとか──
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