あんなに私を嫌っていたのに、記憶を失った婚約者から溺愛されて困惑しています
「まぁ素敵!」

 嬉しそうに瞳を輝かせるアリエノールをオーランドは満足そうに見詰める。
 今日アリエノールはオーランドの私邸を訪れていた。広大な敷地内には滝の流れ落ちる大きな泉があった。
 オーランドの気に入りの場所として案内されたのだが、美しい緑に囲まれたその景色は、何処か懐かしくも感じられた。

「空気が澄んでいて落ち着きますね。不思議と懐かしい感じもします」
「ここは精霊の里に似ているんだ。感じる懐かしさは君の魂の記憶かもしれない」

 アリエノールはうーんと首を傾げた。

「オーリー様にとってファロールはどんな存在ですか?」
「そうだな……覚醒した時はファロールの記憶しかなかったから、人間で在るのが不思議な感覚だった。でもオーランドと呼ばれるのに慣れた頃には、もうファロールとは違う存在なのだと自覚できたな」

 アリエノールはホッと頬を緩めた。

「私も……ノエルは過去の私だけれど今の私とは違う存在だと自覚できてます。でも……あなたに何故こんなにも惹かれるのか……それを考えるとノエルの魂を思わずにはいられないのです」

 オーランドは優しく微笑むとちゅっと額に口付けた。

「ノエルは正式に妻になる前に亡くなったが、ファロールはノエルの死後二人の魂を絆で繋いだんだ。自らの伴侶として──その絆は永遠だから君は俺からは逃れられない」

 オーランドは申し訳なさそうに目を伏せる。普段あまり見せることのなかったファロールの愛と独占欲のなせる技だった。アリエノールは二度三度と瞬き、ふふっと笑った。

「オーリー様、人となったあなたは永遠に私を愛し続けられる自信がおありなのですか?」
「自信しかないな。人の心は移ろうものだと学んだが、決して変わらないものもある。俺の愛はまだ伝わりきれてない?」

 オーランドの微笑に不穏なものを感じてアリエノールは笑顔を引きつらせながら後ずさる。

「お気持ちは十分伝わっております。オーリー様、何度も申し上げてますがどうぞお手柔らかに……」

 言い終わる前にアリエノールはオーランドにきつく抱きすくめられていた。

「愛してるよアリエノール……誰よりも何よりも君を愛してる」

 途端に胸の奥から迫り上がる熱い感情に涙が溢れそうになって、アリエノールはオーランドの胸に顔を埋めた。

「私も……愛してます、オーリー様……」

 堪えきれずにアリエノールはオーランドにしがみついた。ふるふると肩を震わせるアリエノールの背を、オーランドは愛おしげにいつまでも撫で続けた。愛してる、と何度も囁きながら──
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