あんなに私を嫌っていたのに、記憶を失った婚約者から溺愛されて困惑しています
 睦まじいターシャとレオの様子を、アリエノールは少し離れたところから見ていた。

「アリー?」

 あまりにも自然にオーランドはアリエノールの腰を抱き寄せる。

「いえ、あちらにターシャとレオ様が。相変わらず仲がよろしいなと思って」

 ふわりと微笑むアリエノールにオーランドは視線を奪われる。

「俺達も負けてられないよな」

 ちゅっと頬に口付けると、女性達からの悲鳴が聞こえてきた。アリエノールは思わずこめかみを抑える。

「アリー疲れた? 休もうか?」
「いえ、先が思いやられますね……」

 オーランドは女性達の憧れの的だった。彼の隣に立つ者の宿命としてこれから常に嫉妬羨望の視線に曝されるのだろう。
 けれど──

「オーリー様、私は決めたのですよ」
「何をだい?」
「命ある限り私はあなたの隣に在ることを諦めない。あなたに相応しい女で在り続けると」

 ひたむきで真っ直ぐな眼差しにオーランドは打たれたように立ち尽くす。

「簡単には離して差し上げませんから、覚悟してくださいね」

 唇に美しい弧を描くアリエノールに、オーランドは益々魅入られた。

「ああ、アリーそれは俺のセリフだ。俺の執念深さはよく知ってるだろう? 一生離してなんてやらないから君も覚悟するんだな」

 オーランドはニッと口の端を吊り上げ、アリエノールの顎を掬った。

 「愛してるアリー。永遠の俺の唯一……」

 今度はアリエノールが空色の瞳に囚われる。ああ、逃げられない……吸い込まれるような感覚に陥っている間に、アリエノールは口付けられていた。
 女性達の悲鳴も今は気にならなかった。ただオーランドを感じていたい──オーランドの唇が離れると、アリエノールははにかむように微笑んだ。

「私も愛してますオーリー様……」
「アリー……もう敬称は要らないよ。君は俺の妻になったんだ」

 オーランドの蕩けるような笑みにアリエノールは頬が赤らむのを感じた。

「オーリー……慣れませんね」

 恥ずかしそうに笑うアリエノールの頬をオーランドは優しく撫でる。

「敬語もいらない。君とは対等で居たいんだ」
「分かりま……分かったわオーリー」

 困り顔も可愛らしくて、堪らずにオーランドはアリエノールを抱きしめた。
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