引きこもり婚始まりました〜Reverse〜
(……来た)
ついに、この時が。
『あのね。萌ちゃん、事情があって今フリーなんだけど』
母親の、相変わらずどこか飛んだメッセージを見て、心臓がドクンと大きく鳴った。
「……はぁ……」
心臓が痛い。
呼吸を整えようとするたび、余計に上手く酸素を取り入れられなくなりそう。
こういう時、助けてくれたのはいつも女神様だった。
(……女神様だったんだよ。絶対に、恩返しするって決めてた)
初めて会った時は、可愛い子だなって思ってた。
でもあの日、俺を助けてくれて。
『私にできることある? 』
「泣かないで」とも、もちろん「男の子でしょ」とも言わないで、まっすぐに俺の目を見て聞いてくれた。
『一緒にいて』というお願いを、めぐは「兄さんが来るまで」だと勘違いしていたけど、それでもよかった。
年下だからと、お説教も過剰な甘やかしもすることがない彼女は、ごく平凡な俺にとって日に日に特別な存在になっていった。
『は? 女神……って、萌が? どっちかっていうと、俺たちが王子様だろ』
「女神様をぞんざいに扱うな」と、何度兄の春来に注意しても同じだった。
それどころか、思春期を終えて大人になってから――散々他で遊びを経験してから、そろそろ結婚を急かされそうな気配を感じ取って、あのケダモノはめぐに手を出した。
彼女が人間以下の下等生物に絆されてしまったのは、ものすごくショックだったけど、それも仕方のないことだ。
何と言っても、彼女は女神様なんだから。
下等なものほど、救いの手を差し伸べたくなってしまうものなのだ――そう理解しても、しばらくはやっぱり傷ついてしまった俺も、ただの人間でしかない。
だから、早く早くちょっとでも彼女に相応しい存在になりたくて。
人間界の普通の住処で、女神様が可能な限り快適に暮らせるように環境を整えてきた。
そして、今だ。
『了解』
王子様面したクズ――いや、クズも人間に対しての表現だから、それすら勿体ない。
下も下の雄の正体が、ついにめぐにバレた。
(……めぐ……。ごめんね。辛いよね。でも、絶対に俺が幸せにするから)
悲しんでいる彼女を聞いていると、喜んでばかりはいられないけれど。
(この家広いから、めぐも一人時間大事にできるし。部屋も、そろそろ彼女好みにしていかなくちゃ。……あ。でも、一緒に買い物した方が気分転換なるかな)
そうだね。
そのクマさんも、その鉢植えももう要らない。
役には立ったけど、その情報を春来の為に使うことは金輪際ない。
それはきっと、めぐにとってもいいことだから。
『聞いて聞いて! 萌ちゃん、来てくれるって! 優冬、ファイト』
相変わらず、ネジが数本ないのか、きっちり締まってるのか分からない母の激励に適当に返事をしていると、父親からも連絡がきた。
『各方面に、萌ちゃん紹介する手筈を整えてたのに』
という泣き言に、『めぐの気持ち大切にしたいから、彼女を急かさないで。そういう立場じゃないんだし』と返信した後に続けた。
「頑張りはするけどね」
俺といて、女神様が最高に心地よくいられるように。