引きこもり婚始まりました〜Reverse〜
その、少し前。
『助かった。萌、プレゼント喜んでたよ』
『……だろうね。めぐの好きなものを、タイミング良くあげたんだから』
辛いことがあった時、悲しんでいる時に甘い言葉を寄せて好みぴったりのものを贈られたら、誰だって嬉しい。
ましてや、彼女は女神様だ。
どんなプレゼントだって、きっと微笑んで受け取るはず。
『助かってはいるけどさ。まさかとは思うけど、音声やら動画やら、変なことに使ってないだろうな』
『音声ってなに。生活音聞いて興奮する趣味はないし、動画なんて撮らないよ。何でも下半身に直結する春来と一緒にしないでくれる』
自分から頼んだくせして、どの口が言うのか。
めぐとのデートを終えた春来は、怪しいものがないか探すように俺の部屋中目を走らせている。
『めぐを喜ばせたいなら、もうあんなことやめなよ。めぐを傷つけてまで、手を出すような相手? 彼女の何が不満なの。めぐは、あんなに最高なのに』
『何だよ、最高って。萌と何もしたことないくせに。まあ、確かにイイけど? でも、そういう問題じゃない。もちろん萌のことは好きだし、大事にするつもりだけど』
春来の贈り物癖も、「お前のことなら、何でも分かるよ」アピールも、全部自分の不始末からめぐの目を遠ざける為だ。
大体、彼女の素晴らしさは身体だけじゃないから「最高」なんじゃないか。
どいつもこいつも、女性と見ればそればかり。
それも、それなりに大人になったら今ですら、だ。
『浮気する時点で、好きとも大事だとも言えない。男は浮気して当たり前の生物だなんて時代錯誤な発言、めぐに当てはめないで』
『時代錯誤も何も、生物学上の事実、もくしくは統計学だろ。お前がおかしいんだ。いつの彼女が最後だったんだっけ? 大丈夫か』
『……俺にしたら、どこの誰とも、好きでも何でもない相手と身体の一部だけでも触れ合う方が気持ち悪いよ』
触るだけでも嫌なのに、よくそんなことができる。
『カウンセリング受けろ、な? 兄さん、着いていってやるから。とにかく、萌に余計なことするなよ』
(……恋愛感情を持ちにくい人もいる。好きになっても、したくない人だって。なのに、そんな暴言。どんだけ、うじ虫以下)
俺の場合は、そうじゃない。
やってみたことはあるけど、お互い傷つくだけで終わってしまって相手にも申し訳ないから、もうしたくないだけ。
女神様に邪な欲求を持ってはいけないと、春来を汚らわしく見ていたけど、本当は――……。
『……ごめんね、めぐ。遅くなって』
(俺が、守らなくちゃ。害虫が多すぎる)
抱くもの自体は、下等生物どもと変わらないのかもしれない。
それが怖くて、彼女を汚してしまうのが恐ろしくて、手を伸ばせなかった。
準備だけ万端なのは悔しいし、みっともない。
それでも、彼女を迎えるに少しは相応しい場所も地位も、昔よりは手に入った。
後は、勝手にうじ虫が地べたを這うだけ。
そんな見ているだけで不快指数の振り切れたもの、極力女神様の目に入らないようにしないと。
それを見て楽しむなんてできるのは俺だけで、優しい彼女はそれすら辛いだろうから。
怖いものも、醜いものも女神様の瞳に映させない。
――だから、安心してね。