引きこもり婚始まりました〜Reverse〜










(女神様だ……)


見慣れた白いシーツを彼女が纏うと、こうも神々しくなるのか。
幾度となく想像した光景が眼下に広がり、信じられないともこの時を迎える為に努力したんだとも思う。


「……ごめん。見すぎだって自覚はあるけど、目が逸れてかない」

「…………そ、そんな自己申告要らないから」


頬に触れると、その赤み以上に熱い気がする。
照れることないと言っても無理な話で、申し訳ないけど。
恥ずかしがっても逃げるどころか、「いっそ早くしてほしい」と言うように下からくっついてくるのは愛しいしかなかった。

あれから、めぐが俺の家に来てくれて、まだ日も浅いとある夜。
まさかまさか、彼女の方から誘ってくれて、今こうして触れ合っている。


「そんなに真っ赤にさせちゃって、何だか悪くて。というか、正確には、そんな恥ずかしがってるのが可愛くて、そのままにしときたくなっちゃうのごめん……かな」

「そんなこと白状しなくていい……」


(待つ、つもりだったのにな)


待つなんて、これまでの辛かった期間を思えば大したことない――そう思っていた。
何より、普通の人間があまり経験しないような出来事が、彼女が女神様であるゆえに、この短期間で相次いだのだ。
最初は混乱していて、傷の痛みすら感じることができなくて。
後から来る辛さに耐えながら、必死で気丈に振る舞ってくれて――でも。


「……ありがとう」


リビングのソファで縮こまって、一人で泣いてたのはついこの前のこと。
あんな夜に、男、それも信じてたのに最低な裏切り方をした奴の弟に抱きしめられるなんて嫌だろうと、そっとブランケット越しに包み込むしかできなかった。
一人にしておいてほしかったかもしれない。
そうも思ったけど、俺にできたのはそれだけだった。
手を伸ばさずにはいられなかった。


「そ、そんな。私の台詞だよ。……それに、その。何か分かりやすくて強引だったかも」


心の中で謝りながら、せめてと思って間にブランケットを忍ばせた。
我慢できないのは自分なのに、せめて骨格とか肌の感触とか温度――彼女と違うものであるもの全部を、可能な限り薄めて側にいられたら。
そう願っておきながら、それらすべてを曝け出して、彼女のそれすら暴いてしまったのに。


「確かに分かりやすく誘われたし、うん。ちょっと強引だったかも」


(……ああ、まただ。別に、からかって苛めるのが好きなわけじゃないのに)


「でも、俺の為だって知ってる。恥ずかしいから、それ、自惚れにしないでくれると助かる……かな」

「……う、そ、それは……でも。わ、私の希望でもありまして……だから」


お礼なんていらない。
女神様に赦されただけでも、ものすごいことで。
正直に言うと、「もしかして」と思うことは多々あった。
気のせいだと何度も思おうとして、でも、できなくなって。
どうにか抑え込もうとしたところを、直球で誘われて――観念した。


「……俺ね、限界だったみたい。あんなことがあったばかりで、付き合ったばかりでまだ早いって。まだ我慢できるって本気で思ってたけど……本当は、ずっとずっと、君が欲しかった。だから、ありがとう」

「……うん……」


――愛しい。

女神様に抱くには相応しくない感情もまた、やっぱり抑えるのは不可能だって。


(男としても大切にするって、覚悟は決めたつもりだったけど。……でも、女神様すぎる……)


涙を誤魔化すみたいに下から首に腕を回されると、これまで不足していたものが一気に満たされるような充足感と、早く、もっと、彼女を手に入れたいという焦れた劣情が同時に込み上げて止まらない。


「優冬くん……」


(……名前、呼び間違われてもいいって思ってた。傷ついた顔、しないでいられるって)


意識が遠のいても、余裕を失くしてあげても。
もうずっと昔に決心したことなんか、めぐはきっと想像すらしないのだろう。
女神様はただ、俺の名前だけ、ずっと呼んでくれていた。






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