引きこもり婚始まりました〜Reverse〜









めぐは察しがいいし、人の気持ちにも敏感だ。
何もかも見えてしまう女神様は、きっとそれゆえ苦しいんだと思う。
女性社員とうちの社内を楽しそうに歩く彼女を、少し後ろから眺めていると、改めてそう思った。
彼女にやさしい環境を作る為に俺が手を加えたって、きっとめぐは気づいてる。
この前みたいに嫌がらせをされたり、陰でこそこそ言われるよりは偽物でも作り物でもやさしい方がいい。
何より、最初はそうでも彼女の人柄に触れたら、みんな理解できる。
それでも、彼女が素晴らしいからこそのやっかみはあるだろうから、その為の牽制も必要だと思った。
今もその不安は変わらずあるし、正しい行為じゃなくても正しい選択だと確信してる。


(……してる、けど。ごめんね)


太陽を眩しがる俺に笑ってくれたけど、本当は少し違ったんだ。
気づいてるのに俺を嫌いになるでもなく、怒ることもしない。
それどころか、察して合わせてくれるのを見て胸が痛かった。
俺にできないことはないけれど、しないといけないことはあって。
いくらめぐの為だと言っても、不快にさせてしまうのは辛かった。
そんなこと、ここまでしておいて思う権利はないと分かってはいても。




・・・




「優冬くん……? 」


悪いことをしてる気分にならないでって、女神様は言ってくれた。
でも、めぐは分かってない。
いや、知ってるのに、どうして悪いことに分類してくれないのだろう。


「……複雑……? 」

「……え」


指輪をつけた方の手が、そっと頬に触れた。
家に帰ってきて、填めることを許してくれた誓いと約束の証。
細い指に見惚れて、反応が遅れてしまった。


「ごめん。変なこと聞いて。でも、私はすごく嬉しいよ」


(……あ……)


指輪が二回目だと、気にしていると思われたかも。


「違うよ。俺こそ、ごめん。君を不安にさせるなんて」

「ううん。その……優冬くんは、私に春来を忘れなくてもいいって言ってくれたけど、それは優冬くんも同じだと思う。だから、思い出した時は教えてね」


春来を――他の男を、彼女のなかから完全に消してしまうのは無理だ。
大嫌いだったらそもそも付き合ってないし、好きなところがたくさんあったから好きになって、そんな相手から裏切られたら忘れられない。
ましてや、彼女は信じてたのだ。
幼馴染みという存在が、すごく特別なものだと。


「何ていうか、感慨深くはある……かな。切なくはなるけど、嫌っていうのはおかしいね。俺自身がお願いしたことだよ。兄さんと比べてほしい。その気持ちは変わらないし、勝ってるって……これからも勝てるって信じてる」

「うん。でも、嫌って言ってもいいんだよ。怒ったって」


怒るなんて。
そんなことあり得ないし、彼女への怒りなんて感じたこともない。


「側にいてくれて、幸せなのに。でも、そういう時は意地悪しちゃうかも。初めての時、言われちゃったじゃない? あんな感じでいっぱい甘々意地悪してもいい? 」

「〜〜っ、つい最近も、既にそんな感じだった気がする」


笑いながら、否定も肯定もせず。
その掌に口づけると、心配そうな瞳とぶつかった。


「……比べてる。優冬くんは、絶対私の反応見てから進んでくれて……嫌じゃない意地悪しかしないって。そんなことも比べて、大好き」

「……めぐ……」


(……やっぱり、女神様だ)


俺の欲しいものを、こんなにもすぐにくれた。


「……? 優冬くん? 」


しまった。
ソファでまったりしてる場合じゃなかった。
いや、まったりはいいけど、ソファを選んでしまったのが悔やまれる。


「……嬉しい。これからも、春来や他の男を思い出したら比べてね。もっともっと、丁寧にめぐのこと愛したいから」

「……じゅ、十分なのですが」


それは、しつこいということだろうか。
じっと見つめて目で尋ねると、真っ赤になって応えてくれなかったけど。


(ごめん。それはできないことに分類される……)


心の中でした返事は、ちゃんとめぐに伝わったようで。
諦めてくれたのか、胸にくっついてくる彼女の背中を支えて抱くと、これもまた察してくれたのかもっと赤くなって――やがて、小さく頷いてくれた。

――移動したいな、ってお願いに。




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