君の絵を描くなら、背景は水平線にしよう。

この声は君へ届かない










この声は君へ届かない



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唯鈴side



眠いわけではないのに、突然自分の目が閉じていった。
開けようとしてもピクリともしない。
声だって出ないし、体も動かない。
きっと、私はこのまま消えていくのだと思う。
そう思い胸がキュウッてなった時、君の泣き声が聞こえてきて。



大号泣じゃん、て珍しい姿を感じれると同時に、その涙の原因は私なんだと、確認させられる。
そこから来る悲しさと情けなさを胸に、何時間も続く君の声を聞いていた。



そんなに泣き続けたら喉痛めちゃうよ。



そう思っていたら、案の定君の声は段々と掠れていった。



ごめんね、喉痛いよね。
でもやっぱり、1番痛いのは心だよね。



私は、君の優しさを知っているから。
この1年で私は、君の優しい所が現れている場面を何度も見た。
そして思った。



朔くんは、あの頃の朔くんと変わっていない、と。



気をつけてという椿さんの声に、私を守ろうと手をギュッと握ってくれた。
その時、私がとれだけドキドキしてたか、君は知らないんだろうね。



でも、そんな君だからこそ、きっと自分を責めてるよね。
私だって、逆の立場だったらそうしてると思う。
でも私は、この選択を後悔してないよ。
だから、あの頃に戻ってまた最初からやり直せるとしても、私は同じ選択をする。
それが、君の涙に繋がるとしても。
理由は簡単。
私が死ぬより、君が死んじゃうことの方がずっと嫌だから。
君は今この気持ちが大きいんだろうけど、私は君を守れてよかったって、安心してるよ。
再会した時から、ずっと。



君が泣き声が聞こえなくなって、だいぶ落ち着いてきたように感じ取れた時。
カサカサという封筒を開ける音が聞こえてきて、手紙を読もうとしてくれてるんだ、と嬉しくなった。
この1週間、夜寝る前に部屋で書いた手紙。
もうこのお家にはいられなくなるんだとか、椿さんや昴くんたち、朔くんとも会えなくなるんだと考えると、涙を流さずにはいられなくて、少し濡らしてしまったけど。
伝えたいことは、書ききれたと思う。
朔くんがどんな反応をするのか不安に思いながら、耳を澄ませる。



しばらくすると、再び朔くんのすすり泣く声が聞こえてきて。



……あれ、もしかしてまた泣き出しちゃった?
朔くん、泣かないで?
朔くんの分まで私が泣くから、朔くんは笑顔でいて?
この状況じゃ、難しいかもしれないけど。
朔くんは、私に笑顔が似合うって言ってくれたよね。
でも私は、朔くんにも笑顔が似合うと思うよ。
朔くんは不器用な笑顔を見せることが多いけど、たまに太陽みたいに眩しく笑うことがあるの、気がついてる?
私は、その笑顔が大好きだよ。



特に、まだ幼かったあの頃は、毎日のように眩しく笑ってくれた。
だから私は、空と海の間で笑う君に、恋をせずにはいられなかった。
そう、いられなかったの。



でも、それからまた少しして、朔くんは言った。



「俺を好きにさせてしまって……君を好きになってしまって、ごめんなさい……っ」



その言葉が一番胸に刺さった。



どうしてそんなこと言うの?
確かに私たちが恋に落ちたから、別れは余計に辛くなるよ。
でも、恋に落ちたからこそ、私たちはここまで幸せな1年間を過ごせたんじゃないの?
私はそう思ってるけど、朔くんは違う?



いや、きっと朔くんもそう思ってくれてる。
でも自分を責めるあまり、こんなにも悲しいごめんなさいが出てきたんだよね。
それなら私だって、朔くんに謝りたいことがたくさんあるよ。



謝らせて、自分を責めさせてしまって、ごめんなさい。



まさに今、君の泣き声を聞いてると思うこと。
でも、まだ時間はあるにも関わらず、このごめんなさいを言えないまま君の泣き声を聞くことしか出来ないのが、何よりも辛い。



こんな気持ちになるのは、きっと私たちがお互いを想いすぎたから。
好きで好きでたまらなくて。
その気持ちを伝えたくて、あわよくば愛してると告げたかったくらい。
でも、それほど好きになってしまうとお別れは一層辛い。
だから私は朔くんの告白を受け入れなかったけど、今思うと、そんなの関係なかったかもしれない。
だって、今、私の胸は裂けてしまいそうだから。
別れの悲しみで、ズタズタにされて。
でも、君と恋をしたことでこの辛さが生まれたなら、私はこの辛ささえも愛おしく思うよ。



そう、君に届くはずもないけど、君に届くよう願いながら思っていると。
朔くんは手紙を読み終えたようだった。
混乱しているだろうし言葉をかけてあげたいけど、今の私はそれが出来ない。
まだその時までは数時間あるんだし、動いてくれたっていいじゃん、と自分の体に腹を立てる。
そうしていると、ふと、右手が何かに包まれた。



これは……朔くんの手?



手を握って欲しいと手紙に書いたけど、読み終えてすぐしてくれるとは思わなかったから、私は不意打ちを食らい心音が大きくなる。



朔くんの手は少し冷たくて、少し固い男の子の手をしていた。
そんな手が、私の手を優しく握ってくれている。
そう思うと、心はすごく温かくなった。
そして確信する。



私は、この世界から消えても、朔くんの中に在り続けると。
朔くんは、私のことを忘れないでいてくれると。



頭の中で、君へと叫ぶ。



君が泣きながら手紙を読んでくれている間も、君の声は私に届いてるよ。
私の声はもう届かないかもしれないけど、
泣かないでなんて言っちゃったけど、私がいなくなることを悲しんでくれて、ありがとう……っ



辛くて悲しくて苦しくて、それでも、確かに私は幸せだった。
それは朔くんのおかげ。
ずっと近くで、見守ってるから。
どうか泣かないで、私の愛しい人──。


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