ホテル王の甘く過激なご要望

10 恋に落ちて

side久遠武人(くおんたけと)

琴宮とは同期入社だった。
俺も琴宮もコンシェルジュを目指しているという事で意気投合した。
俺は最初から琴宮に好感を持っていたが、最初の3年間は俺はフロント、琴宮はレストランに配属された。

そして、それから4年後。
俺たちは新人コンシェルジュとして再び出会った。

俺はすぐに才能を開花させ、琴宮も堅実に実力をつけていった。
俺はロイヤルスイートを2年目で任されたが、琴宮はスイートにとどまっていた。
それで、色々相談に乗ってるうちに、彼女のコンシェルジュに対する熱意と真摯な気持ちに、俺は恋に落ちたのだ。

あぁ、話を戻すと、彼女は今俺のマンションの寝室で寝息を立てているだろう。
それを想像すると悶々となるので、と思っていたら、寝室から音がした。

目が覚めたか…

俺は冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを取り出して、彼女に持って行った。

明日の朝一で送ると言い、俺はある話を切り出した。

「琴宮、俺が色々ツテがあるのは知ってるだろ?
まぁ、琴宮もコンシェルジュだから、多方面にツテはあると思うけど…」

「うん、遠慮しないで。
どうしたの?」

香月市(こうづきし)のヘブンリーフェザーの系列のホテルのコンシェルジュに聞いたんだが…
天羽オーナーはコンシェルジュが嫌いらしい。
理由は分からないが、その香月のコンシェルジュは、天羽オーナーにパワハラやモラハラを受けたと言っていた。

お前、大丈夫か…?
天羽オーナーに変な事されてるんじゃ…?」

俺は琴宮が心配でたまらなかった。

「そう…
うん、平気よ!
少しの嫌がらせで凹んでられないわ!
ずっと夢だったコンシェルジュになったんですもの!」

琴宮は言う。

「まだ、続きがあるんだ…」

「続き?」

「天羽オーナーは他のホテルでもコンシェルジュイジメをやっててな。
たまたま、香月のコンシェルジュはホテルに残ったが、最悪クビにされるらしいんだ…

天羽財閥のホテルは国内最大級だ。
そこをクビになると…
それ以上のホテルに再就職は厳しい…」

俺は言った。

「そう…
でも、それも分かってるから大丈夫…

いつか、言ってたじゃない?
どっちが、先にチーフになるか競争だって。
まだ、勝負はついてないわよ?」

琴宮は挑戦的にそう言った。

そんな彼女が俺はやはり心から好きだった。

「あぁ、そうだな…
もし、琴宮が逆に天羽オーナーに気に入られたら…
って事もあるしな。
俺も頑張るよ。
だから、お前も…負けるなよ?」

「うん、絶対負けない。」

そう言って琴宮は今日初めて笑顔を見せた。
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