ホテル王の甘く過激なご要望

13 ホテル・庵

私は泣きながらオープンロイヤルスイートを後にした。
悔しかった。
なぜ、こんなにも馬鹿にされ、蔑まれなければならないのか?

彼は私を売女と言った。
騙した、とも。

一体何のことなのか?
私には分からなかった。

顔を洗い心を落ち着けてコンシェルジュルームに戻ると、天羽オーナーのファイルをもう一度開いた。
何か、何か、見落としがあるのかもしれない。

ファイルを開くと…

幼少期はホテルのペントハウスに住み、ホテル暮らしだったと書いてあった。
そのホテルは松月市(まつづきし)の老舗のホテル・庵だった。

このホテル・ヘブンリーフェザーはまだ、建って15年ほどだが、松月市のホテル・(いおり)は35年ほどになる。
もちろん、大きなホテルであり、30階建てだと聞いている。

私はホテル・庵についての情報を頭に叩き込むと、外出のカードを掛けて、松月市へ向かった。

もしも、天羽オーナーのコンシェルジュ嫌いが、幼少期に起因しているとするなら…
ホテル・庵に何かあるかもしれない。

私はホテル庵に着くと、1番経歴の長いコンシェルジュとお会いしたいとフロントに伝え、ホテルロビーで待った。
ヘブンリーフェザーとは違い、ホテル・庵はアンティークであり、モダンな造りだった。

「私に何かご用でしょうか…?
あ、チーフコンシェルジュの川崎郁代(かわさきいくよ)と申しますが…」

50代後半ほどの彼女はそう挨拶した。

「初めまして。
ヘブンリーフェザーでコンシェルジュをしています、琴宮茉莉(ことみやまつり)と言います。」

「はぁ…」

「突然で失礼ですが、天羽萬里さんをご存知ですか?」
 
私は尋ねる。

「え、えぇ、そりゃ、お坊ちゃんはこのホテルで育ったんですからねぇ。」

「天羽萬里さんが幼少期の頃の担当コンシェルジュとお話したいのですが…」

「それは無理ですよぉ。
もうとっくに辞めちゃって、どこに居るのかも…
何せ、20年以上前の事でしょう?」

川崎さんは答えた。

「そのコンシェルジュはどんな方だったか、お伺いしても?」

「まぁねぇ、もう時効だから言いますけど…
ちょっと子供嫌いな所があってねぇ、そのコンシェルジュ…
結構お坊ちゃんに冷たく当たっていたんじゃ無いかしら…」

川崎さんは言った。

これだ…!
これが、天羽オーナーのコンシェルジュ嫌いの原因だったんだ…!

「話してくれてありがとうございます。
そのコンシェルジュのお名前を教えてくださいますか?」

私は言う。

「えーと、確か藤井沙織(ふじいさおり)と言ったかしらねぇ?
今はもう、50歳近くなっているでしょうけどねぇ。

あ、お坊ちゃんはお元気?」

「えぇ、お元気ですよ。」

私はにっこりとそう言い、川崎さんと別れて、ホテル・庵を後にした。
pagetop