【完結】ホテル王の甘く過激なご要望

36 コンシェルジュの心得

「はぁ?」

眠そうに聞き返す天羽オーナー。

「良いですか!
第1回戦で天羽オーナーが武人に負けたのは、コンシェルジュとしての心得が足りなかったからです!」

私は仁王立ちで言う。

「コンシェルジュの心得ぇ?
そんなの"真心込めて"とかどうせ言うんだろ?
もういいよ。」

天羽オーナーはシーツを引っ被る。

私はシーツを剥がして、天羽オーナーを叩き起こした。

「コンシェルジュとはそんなに浅はかな物ではありません!」

私は鬼の形相で言う。

「分かったよ、琴宮…」

「コーヒーですね?」

私は素早く言う。

「そうそう、よく分かったな…?」

「今私がやったのが、コンシェルジュの"お客様の心を読む"という事です。
どんな時もコンシェルジュはお客様のご要望を聞きますが、それは声に出したご要望に限りません。
心の中の声を聞き、心の中のご要望も叶えるのです。
私は、天羽オーナーが徹夜でしたのを知っていますから、起きるならばコーヒーを、と即座に考えたのです。」

私は言う。

「なるほど…」

天羽オーナーは少しだけ感心しているようだ。

「では、コーヒーをご用意しますので、リビングのソファでお待ちください。」

私は言って、キッチンに向かい、コーヒーを淹れた。

天羽オーナーの前のテーブルにコーヒーを置くと、私はさらに語り出した。

「良いですか?
天羽オーナー。
コンシェルジュはどんなお客様のご要望にもイエスで応えなければなりません。
それがどんなに無茶なご要望でも、です。

まずは、お客様に、大丈夫です、やってみます、という気構えを見せる必要があるのです。」

「ふむふむ。」

天羽オーナーはコーヒーを飲みながら、少し真剣に私の話を聞き始めた。

「武…いえ、久遠コンシェルジュがお客様とまずは話す事を大切にしたのは、お客様のご要望を、また心の中のご要望を、的確に把握する為でもあります。

久遠コンシェルジュはお客様の心の中のご要望が、メモを探し出す事ではなく、取引先の方に連絡を取る事だと察知したのです。

だから、メモを探す事をせずに、お客様から取引相手の特徴を聞き出しお相手を特定したのです。

さらに、久遠コンシェルジュは代替案という考えを用いています。
これは、たとえばお客様のご要望がコーヒーを淹れて欲しい、という事に対して、コーヒーが切れていた場合、紅茶をご用意するなど、お客様が満足される代替案をご提示することです。

久遠コンシェルジュはメモではなく、取引相手を探し出すといえ代替案をお客様に提示しています。」

私は説明した。
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