【完結】ホテル王の甘く過激なご要望

53 夏風邪

side天羽萬里

それから、俺は超慌てて琴宮をベッドに運び、すぐに医者を呼びつけた。

「夏風邪ですね。」

医者は当たり前のような事を当たり前のような顔で言った。

「お薬をお出ししときますので、朝、昼、夕食後に飲ませてください。」

医者は言うと、カバンを片付け始める。

「お、おいっ!
それだけか!?」

「それだけ、とは…?」

医者は不思議そうに首を傾げた。

「ほ、ほ、ほら、もっとすぐ効く点滴とか、注射とか、色々あるだろ!
薬なんかで治るのかよ!」

俺はつい乱暴な口の聞き方になってしまう。
ヘブンリーフェザーのオーナー天羽萬里ともあろうものが、琴宮の風邪というだけで、心配で胸がはち切れそうだった。

「お薬だけでよーく、効きますので、大声を立てずに、静かに寝かせてあげてください。」

医者は嫌味とも取れるような要らない一言を言うと、オープンロイヤルスイートを後にした。

「ん…」

琴宮が少し目を開けた。

「琴宮っ!
俺だ!
俺が分かるか!?」

「あも…う…オーナー…
わた…し…
しごと…しなく…ちゃ…」

琴宮は言う。

「馬鹿っ!
そんな状態で仕事出来るはずないだろ!
コンシェルジュチーフには連絡しといたから、安心して寝ろ。」

俺は言い、彼女の頬をそっと撫でた。
彼女の頬はまだ熱く、少し汗ばんでいた。

「あり…がと…う…」

そう言って琴宮は気を失うように眠った。

4時間後、夕食の時間になったので、特別に作らせた粥を持ってベッドルームに入った。

「琴宮、食べれるか?」

「あ…
私ずっと寝てたんですね…」

琴宮は少し熱が下がったようでそう言った。

「びっくりしたぜ。
急に倒れるからさ。
ちょっと仕事頑張り過ぎじゃねーの?
って、俺が言うなって話か…」

俺は頭を掻く。

琴宮はふふっと、笑っている。

そして、粥を食べて、薬を飲んで琴宮は眠った。

しかし、夜中。

俺も隣のベッドでうつろうつろしていると…

「天羽オーナー…
寒い…」

「はあ!?
夏だぞ!?」

しかし、琴宮は真っ青で震えている。

俺の分の毛布とシーツをかけてやっても、寒いと言う。

困った…
どうすれば…?

えぇい、ここは!

俺は琴宮のベッドシーツに潜り込んだ。

「天羽オーナー!?
な、な、何して!?」

「身体であっためるんだよ!
黙って俺にくっつけ!」

俺は琴宮を引き寄せ抱きしめた。

彼女の身体は熱く、本当に寒いのか分からなかったが、俺は彼女を強く包み込むと、腕を摩って温めた。

琴宮はいつの間にか眠ってしまったようだ。

俺の眠れない夜は今始まったばかりだった。
トホホ…
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