ホテル王の甘く過激なご要望

8 コンシェルジュ嫌い

side天羽萬里

俺はコンシェルジュが嫌いだった。

幼い頃からホテルのペントハウス暮らしだった我が家には父と母は居なかった。

いや、もちろん、父も母も生きている。
だけど、2人は天羽財閥を大きくする為海外を飛び回り、ほとんど家には居なかったのだ。

そして、俺の世話を仰せつかったのが、そのホテルのコンシェルジュだった。
コンシェルジュは両親にはいい顔していたが、俺には冷たい態度だった。

ガキの世話など給料の内に入っていない、と他のホテルマンにぼやいているのも聞いた。
幼い俺には頼れるのはコンシェルジュだけだったが、そのコンシェルジュは俺の事が嫌いだったんだ。

俺は…
いつか、天羽財閥を継ぎ、コンシェルジュを逆にこき使う立場になってやる、と心に決めた。

俺はその思い通りに、帝王学や経営学、語学を徹底的に学び、ついに天羽財閥のトップに立った。
俺の才覚はすぐに開花し、日本でも海外からもホテル王として一目置かれるようになった。

そして、つい最近このヘブンリーフェザーのホテルにしばらく滞在する事にした。
俺は…
コンシェルジュを徹底的にイジメ倒して、辞めさせてやろうと思っていた。

その時、俺の担当になったのが、琴宮茉莉(ことみやまつり)だった。
彼女はコンシェルジュに人生かけているような面持ちで俺に対応した。
腹が立った。
どうせ、コンシェルジュなど、金持ちにしか尻尾を振らない。
ガキの世話など、仕事じゃないと思っているくせに…

私は立派なコンシェルジュです。
という姿勢を崩さない琴宮にイラついた。

泣くまでいじめてやろうと思った。

全裸で覆い被さったのも、身体を拭けと言ったのも、胸を触ったのも、全部嫌がらせだった。
お堅そうな琴宮にはコレが1番効くと思った。

だが…

彼女は逃げなかった。

どこかで隠れて泣いたかもしれないが、少なくとも俺の前では涙を見せなかった。

イライラが募った。

それと同時に、少し嬉しかった。

そんな自分に嫌気がさし始めていた。

俺は…
幼かったあの頃、コンシェルジュに甘えたかったんだ…

俺が欲しかったのは…

愛情だった。

それに気づいた時、俺は微かな吐き気がした。

違う、嫌いなんだ。
憎いはずだ。

コンシェルジュなど、居なくなってしまえばいい。

そう思ったが、吐き気と共に頭痛まで起きた。
俺はしばらく寝室のベッドに横になった。
だけど、頭痛は治まる気配を見せなかった。

こと…みや…

彼女がもしも、幼い頃のコンシェルジュだったら…

俺を愛してくれたのだろうか…?

馬鹿馬鹿しい考えだと分かっていたが、仕事に必死な琴宮を見て、そう思わずにはいられなかった…
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