坂の町で、君と。
3-2 これは恋?
知奈から明鈴に連絡があったのは、五月初旬のゴールデンウィークだった。明鈴も中学三年生になり、受験という単語が目の前にある日々だ。
「志望校、どうしようかなぁ」
『模試の結果と相談だよー。あとは制服かなぁ』
公立の中学は地域で決まっているので制服で学校を選ぶ自由はなかったけれど、高校は自分で選ぶ権利がある。もちろん合格するための学力は必要になるけれど、それさえあれば選び放題だ。
『どうせなら可愛い制服が良いし』
「あー……確かに、知奈ちゃんの学校の制服かわいいよね」
他の学校と比べて特に大きな違いはないけれど。
中学のセーラー服が妙に地味なので、赤いリボンとチェックのスカートが印象的だった。
「私も早く可愛い制服が着たいなぁ……。あっ、彼氏は出来た?」
明鈴が思い出して声を強くして聞いたので、知奈は少し笑った。
「出来たの? カッコいい彼氏!」
『ははは、出来たよ』
「良いなぁー! どんな人? 同級生?」
明鈴からのたくさんの質問に、知奈は笑いながらすべて答えてくれた。毎朝一緒に登校していること、時間が合えば一緒に帰っていること、同じクラスなのに教室ではほとんど話さないこと。
『友達には教えたけどね』
「良いなぁ。私も彼氏欲しい……」
『明鈴ちゃん──、あの人とどうなったの?』
「……どうなんだろう」
昇悟にクリスマスプレゼントをもらったところまで明鈴は知奈に話していた。明鈴はプレゼントを用意していなかった──ということは、クリスマスの時点で明鈴は昇悟に特別な感情はなかったということだ。
「毎日使ってると……なんか気になっちゃって」
昇悟がわざわざ明鈴のために選んで買ってくれた。
いつもお世話になってるのに、最初の出会いもそうだったのに、また昇悟に気を遣わせてしまった。
明鈴は彼には何もしていないのに──。
本当に、ちょっとしたプレゼントのつもりだったと思うけれど。
それでも考え出すと止まらなくなって、何かしないといけない、と思った。
「だから……バレンタインにあげたよ」
『おお? チョコ?』
「うん……あ、でも、別にそんなんじゃないよ」
『でも明鈴ちゃん、気になってるんでしょ? それは好きというヤツだよ』
「えー……私が? ……うーん……」
『ははは、絶対そうだよ、だって、本当に何とも思ってないなら気にならないし、好きじゃない、って言いきるでしょ?』
明鈴は知奈に反論できなかった。
昇悟のことは、もちろん嫌いではない。
一緒にいるのは楽しいし、今年になってから家庭教師も隔週から毎週になった。昇悟の都合で晩ご飯を一緒に食べるのが毎回ではなくなってしまい、それが寂しいと感じるようになった。
昇悟は中学校の近くに用事があるようで、帰りに明鈴を見つけた金曜日はいつも一緒に帰る。もちろん車だったときは、助手席に乗せてくれる。それを見かけた友人たちは、いつも羨ましそうに二人を見る。明鈴はいつも友人と帰ると言うけれど、友人たちは明鈴の背中を押して車に乗せようとする。
「やっぱり……そういうことなのかなぁ……」
明鈴が昇悟のことを良いように友人たちに話しているせいか、友人たちも昇悟を見ると嬉しそうだった。明鈴に「またね」と言うついでに、「頑張れ」と言うのを聞いたこともある。
『そういうことだよ。向こうも気にしてなかったら何もしないと思うよ。今は明鈴ちゃんの先生だから黙ってるんじゃない?』
「黙ってるって……え? でも、向こうは大人だよ」
『恋に年齢は関係ないからね。良いなぁー年上!』
知奈との電話を切ってから、明鈴は昇悟のことを考えた。
周りが言うように彼が好きだとは──断言できないけれど。
考えれば考えるほど、頭から離れなくなった。
「志望校、どうしようかなぁ」
『模試の結果と相談だよー。あとは制服かなぁ』
公立の中学は地域で決まっているので制服で学校を選ぶ自由はなかったけれど、高校は自分で選ぶ権利がある。もちろん合格するための学力は必要になるけれど、それさえあれば選び放題だ。
『どうせなら可愛い制服が良いし』
「あー……確かに、知奈ちゃんの学校の制服かわいいよね」
他の学校と比べて特に大きな違いはないけれど。
中学のセーラー服が妙に地味なので、赤いリボンとチェックのスカートが印象的だった。
「私も早く可愛い制服が着たいなぁ……。あっ、彼氏は出来た?」
明鈴が思い出して声を強くして聞いたので、知奈は少し笑った。
「出来たの? カッコいい彼氏!」
『ははは、出来たよ』
「良いなぁー! どんな人? 同級生?」
明鈴からのたくさんの質問に、知奈は笑いながらすべて答えてくれた。毎朝一緒に登校していること、時間が合えば一緒に帰っていること、同じクラスなのに教室ではほとんど話さないこと。
『友達には教えたけどね』
「良いなぁ。私も彼氏欲しい……」
『明鈴ちゃん──、あの人とどうなったの?』
「……どうなんだろう」
昇悟にクリスマスプレゼントをもらったところまで明鈴は知奈に話していた。明鈴はプレゼントを用意していなかった──ということは、クリスマスの時点で明鈴は昇悟に特別な感情はなかったということだ。
「毎日使ってると……なんか気になっちゃって」
昇悟がわざわざ明鈴のために選んで買ってくれた。
いつもお世話になってるのに、最初の出会いもそうだったのに、また昇悟に気を遣わせてしまった。
明鈴は彼には何もしていないのに──。
本当に、ちょっとしたプレゼントのつもりだったと思うけれど。
それでも考え出すと止まらなくなって、何かしないといけない、と思った。
「だから……バレンタインにあげたよ」
『おお? チョコ?』
「うん……あ、でも、別にそんなんじゃないよ」
『でも明鈴ちゃん、気になってるんでしょ? それは好きというヤツだよ』
「えー……私が? ……うーん……」
『ははは、絶対そうだよ、だって、本当に何とも思ってないなら気にならないし、好きじゃない、って言いきるでしょ?』
明鈴は知奈に反論できなかった。
昇悟のことは、もちろん嫌いではない。
一緒にいるのは楽しいし、今年になってから家庭教師も隔週から毎週になった。昇悟の都合で晩ご飯を一緒に食べるのが毎回ではなくなってしまい、それが寂しいと感じるようになった。
昇悟は中学校の近くに用事があるようで、帰りに明鈴を見つけた金曜日はいつも一緒に帰る。もちろん車だったときは、助手席に乗せてくれる。それを見かけた友人たちは、いつも羨ましそうに二人を見る。明鈴はいつも友人と帰ると言うけれど、友人たちは明鈴の背中を押して車に乗せようとする。
「やっぱり……そういうことなのかなぁ……」
明鈴が昇悟のことを良いように友人たちに話しているせいか、友人たちも昇悟を見ると嬉しそうだった。明鈴に「またね」と言うついでに、「頑張れ」と言うのを聞いたこともある。
『そういうことだよ。向こうも気にしてなかったら何もしないと思うよ。今は明鈴ちゃんの先生だから黙ってるんじゃない?』
「黙ってるって……え? でも、向こうは大人だよ」
『恋に年齢は関係ないからね。良いなぁー年上!』
知奈との電話を切ってから、明鈴は昇悟のことを考えた。
周りが言うように彼が好きだとは──断言できないけれど。
考えれば考えるほど、頭から離れなくなった。