坂の町で、君と。

4-2 合格発表

 二月の中旬。
 高校入試の結果が各受験生に届き始め、明鈴のクラスでもそれが話題になっていた。ほとんどの生徒は合格圏内の高校を受験していたので、不合格で落ち込んでいる生徒は今のところいない。
「おお! 顕彰、合格? すごいな!」
 小松顕彰も志望していた付属高校に合格したようで、これから迎える寮生活を心配しながら、友人たちと盛り上がっていた。
「俺の他にあの高校受けた人いないからなぁ……緊張するなぁ……友達できるかなぁ……」
「たまには遊ぼうな!」
「夏休みとかお正月しか無理っぽいけど……絶対、遊ぼうな!」
 チャイムが鳴って担任がやってきて、耳に入った会話に参加しながらクラスを静めていた。明鈴も友人との会話を終了し、自分の席に戻った。
 生徒たちは登校しているけれど、授業はすでにほとんど終わっている。いま合否結果が届いているのは私立高校で、公立高校の試験は卒業してからなので、生徒たちはほとんど自習に時間を充てている。
「明鈴ちゃんは公立は受けないんでしょ?」
「それが一番良いんだけどね……」
 高校は女子校にすると決めた明鈴は、公立高校を受験するつもりはなかった。なのでクラスメイトたちが自習している間、そろそろ届くはずの合否結果を待ってそわそわしながら、高校では英語をしっかり勉強したいので英語の本を読んだりしていた。
 もちろん、いまの明鈴の英語力で難しいものは読めないので、英語で書かれた童話を借りて読んでいた。いつかは英字新聞を読んでみたい──けれど、今の川井家ではいろんな意味で少し厳しそうだ。
「明鈴ちゃんは、英語を使う仕事するの?」
「うーん……まぁ、そうかなぁ?」
 明鈴の母親の実家のゲストハウスは、以前にも増して外国人客が増えた。今はなんとか母・雪乃が頑張って対応しているけれど、質問されても答えるまでに時間がかかってしまう。もっとすらすらとコミュニケーションを取れるようになれば案内できることも増えるし、ホームページにも堂々と『英語対応可能』と載せられる。

 ──その晩。
 家族との夕食を終えた川井家のリビングで、雪乃は「じゃーん!」と少し分厚めの封筒を見せた。
「何これ? ……あっ、これ、もしかして」
「分厚いから大丈夫やと思うけど……明鈴、開けてみて」
 明鈴宛のその封筒には、三つ折にされた用紙が何枚か入っていた。その一番上のものを広げると、雪乃と晴也も覗き込んできた。
「どう?」
「合格……やったぁ、合格!」
 明鈴も無事に第一志望の高校への進学が決まり、喜びの勢いのまま友人・知奈に電話をかけた。最初、電話には母親の翔子が出たようで、少し話してから知奈に代わってもらった。高校に合格した話から、近いうちに遊ぼうという話、知奈が彼氏と仲良しという話。若者の電話はまだまだ続きそうだ。

 明鈴が知奈と電話している一方……。
「ということは、あれやな……あの話、昇悟君からしてもらうことになるんやな。夏鈴の墓参りにも……」
「二月やしねぇ……。私らはこないだ行ったから、それは昇悟君にお任せしようか。もしかしたら、もう行ったかもしれんけどね」
 晴也が結婚前に小樽に引っ越した理由。
 昇悟が晴也に頭が上がらない理由。
「そういえば雪乃、例の……NORTH CANALの常連さんたちは元気なん?」
「常連さん? あー! モモちゃんたち? 近いうちにみんなで来てくれるって連絡あったよ!」
 雪乃が晴也と出会った頃、NORTH CANALに毎年二月にスキーで来ていた四人組。それぞれ結婚して子供ができてから全員で来ることはなくなってしまったけれど、何ヵ月かに一度、個別に顔を出してくれていた。一番早くに結婚したモモとノリアキは夏休みに子供を連れて来ていて、久しぶりにみんなで会いたいね、と話したのをきっかけに連絡を取ってくれたらしい。
「でもまた、変顔選手権とかなったら嫌やな」
 晴也が二回目にNORTH CANALに来たとき、玄関で雪乃が迎えた次に目にしたのはリビングで変な顔をする男たちだった。既に決勝だったので晴也は判定だけで済んだけれど、それから何度か選手権に勝手にエントリーされていた。
「明鈴は……昇悟君がいなかったら生まれてないんよな……」
「昇悟君と、夏鈴さんの……。複雑やろうね」
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