花と共に、あなたの隣で。
履いてきたローファーを身に付け、ゆっくり歩いて向日葵が植えられている花壇を目指す。本当に学校には誰も居ないのか。それとも涼しい冷房の効いた教室に籠っているのか。蝉の声だけが響き渡る静かな校庭に、少しの不安感を抱くほどだ。
プール横に設置されている花壇には、横一列に沢山の向日葵が植えられている。ざっと20本くらい。等間隔で咲いている向日葵は、みんな太陽の方を向いていた。
「このジョウロで……終わる?」
暑い太陽に背中を向けて角で咲いている向日葵から順番に水を掛けてあげる。備品庫に置かれていたジョウロは、まさかの子供用だった。青色で象の形を模した小さなジョウロを傾け、向日葵の根本を濡らしていく。ジワッと汗が噴き出す感覚に気持ち悪さを覚えながら3本目の向日葵の元に来ると、既にジョウロの中身が空っぽになっていた。この子供用ジョウロでは向日葵を2本分しか満たせないらしい。
「ふぅ……」
思わず溜息を漏らし、花壇から近い体育館の蛇口に向かおうとすると、長い緑色のホースを引っ張って走ってくる先生の姿が目に付いた。先生は走りながらニヤッと笑い、握っているホースのレバーを引く。そのホースの先から勢いよく出てきた水は私の方へ飛んできて、またもや制服を濡らす羽目に。
ついムスッと頬を膨らましながら、子供のように微笑んでいる先生の元へ駆け寄る。そしてその手からホースを奪って、同じようにレバーを引くと、先生に向かって勢いよく水が飛び出した。
「あっ!! 森野……お前やったな!」
「先に仕掛けたのは先生ですから」
「貸して、今度は俺の番」
「嫌です〜」
静かな校庭に響き渡る私と先生の声。繰り返し飛び出す水は、太陽の光に照らされ小さな虹を作る。その虹を見てまた子供のように2人喜び、もはや何の為にホースを持って来たのかすら忘れていた。
また生温い風が私たちの横を通り過ぎていく。静かに揺れ動く向日葵は、水をやらずに遊んでいる私たちを笑うかのように、ザワザワと音を立てていた。