花と共に、あなたの隣で。
6.病気と一輪の彼岸花
「未来ちゃん、今日は暇?」
「……え、ナベ?」
川内総合病院内にある、川内わかば園。休日の今日、予定がない私は部屋で1人テレビゲームをしていた。最近ハマっているのは、村を開拓してのんびりライフを送るゲーム。今日の時間を全て使って、思い通りの村を作ってみよう……。なんて、そんなことを考えていた。
ナベとは基本的に診察でしか会わない。わざわざ私の部屋まで訪ねて来ることが無いから、何かあったのかと少しだけ心配になった。
「ナベ、どうしたの」
「いや。僕さ、今日は非番なんだ。それで、ある人の所に行こうと思ってね。未来ちゃんが良ければ一緒に行かないかなって」
「……ある人? 両親の所ならお断りです」
「違うよ。未来ちゃんの知らない人」
普段から真面目そうなナベだけど、今日は一層真面目そうな表情をしていた。というか、真剣な表情と言うのが正解だろうか。
ある人というのが誰なのか皆目見当もつかないが、ここはナベの誘いに乗ることにした。ゲームを理由に断るのも、何か違う。
夏芽さんと朱音さんにナベと出掛ける旨を伝えて、わかば園から外に出る。いつもの白衣ではなく私服を着ているナベの後ろを付いて歩き続けると、駐車場に停めてあった黒い車の前で止まった。
「少し遠いんだ。乗って」
「うん」
左ハンドルの高級車……。高校生の私でも分かる、有名な外車。初めての外車にドキドキしながら乗り込むと、同時に運転席へ乗り込んでいたナベに笑われた。
「緊張してる?」
「外車って初めてだから……」
ふふふ、と意味深に笑ったナベは車を発進させる。「僕じゃなくて、外車にドキドキね」と言ったナベの腕をパァーンと叩き、「ナベではドキドキしないしっ!」なんて大声で叫んで、移り変わる景色を視界に入れた。