花と共に、あなたの隣で。
車は隣の市に入り、どんどん山の方へ向かって行く。
見たことが無い場所に不安を覚えながらナベと雑談を繰り返していると、車が辿り着いた場所はなんと墓地だった。
降りるよう促され、ナベの背中を追って墓地に入って行く。私たち以外誰もいない。鳥のさえずりだけが響く広い墓地には、真っ赤な彼岸花が粗雑に咲いていた。
「ナベ、ここは?」
「……もうすぐ。目的の人の所に着くよ」
数々のお墓の前を通り過ぎて行くと、とある1つのお墓の前で立ち止まった。『戸野家』と書かれた、立派なお墓だ。
「……戸野。久しぶり」
「…………」
その場でしゃがみこみ、軽く手を合わせて目を伏せるナベ。何か話しているのか、ブツブツと私には聞き取れないくらい小さな声で呟いていた。
戸野家。その周りには沢山の彼岸花が咲いている。どこよりも多い花の量に、このお墓がまるで彼岸花を誘き寄せているような気がした。
真っ赤な彼岸花が揺れる。ナベが呟いた後に、何度も強い風が吹き抜けて行く感覚がするから不思議だ。
「未来ちゃん、ごめんね。お待たせ」
「ううん、大丈夫だけど……このお墓は……?」
「…………」
泣きそうに唇を噛み、眉間に皺を寄せる。強く目を瞑り、何かを言うか言わないか、葛藤しているようなナベの様子に不安を覚える。
妙な空気感。目に雫を浮かべたナベが小さく溜息をつくと、また強い風が吹き抜けた。やっぱりお墓と関係があるのだろうか。ナベは微笑みながら「そうだな、ありがとう」と普通の声量で呟き、私と目を合わせた。
「————戸野和都、僕の友達。8年前に亡くなった」
「……」
「友達であり、僕が脳神経内科医になって初めての、患者でもあったんだ」
「…………」
あまりにも悲しそうだった。こんなナベの表情は、今までに見たことが無い。
ヒューっと、また風が吹き抜ける。ここがお友達さんのお墓であることは分かった。だけど、どうしてここに私を連れて来たのか、それが今も分からずにいる。
ナベにどんな言葉を掛けたら良いのか分からなくて、つい黙り込んでしまう私。近くに咲いていた彼岸花に目を向けて静かに眺めていると、ナベは小さく言葉を継いだ。
「僕、未来ちゃんに病名を伝えていない」
「そ……そうだね」
幼い頃からこの病気を患っているのに、両親もナベも病名を教えてくれていない。自分が何の病気に罹っているのか、それを何も知らないまま生きてきた。だから余計に、余命云々の意味が分からないっていうのもある。
ずっと隠されて来たこと。
それを今、話題として切り出す理由とは……。
「今日はね、未来ちゃんにきちんと話しておこうと思って、ここまで連れて来た。そろそろ君自身にも、自分のことを知っておいて欲しい」
「…………そのくらい、悪化してたってこと?」
「……」
私の質問に対して、ナベは何も言わなかった。
その代わり、ナベの言う“知っておいて欲しい”ことについて、意を決したように話し始めたのだ。