花と共に、あなたの隣で。

7.秋桜の隣で



 夏の暑さが過ぎ去り、丁度いい快適な気候に恵まれ始める季節。気が付けば私の頭上を飛んでいる赤とんぼは、何を思ってそこに居るのか。


 季節は文化祭シーズン。高校生になって初めての文化祭だが、友達がいない私には楽しみが見いだせない。とはいえ、そんなの自業自得だが。
 賑やかな学校。校舎も構内も盛大にデコレーションされ、いつもと違う空気が漂っている。いつになくやる気に満ちている生徒たちを横目に見ながら、1人ゆっくりと校内を歩き回っていた。


《3年B組 あっつあつの「あげたこ」・駐輪場にて!》
《2年A組 チョコバナナ・生徒昇降口前!トッピング無限☆》
《1年A組 輪投げ・3年A組教室にて!景品も有り》


 掲示板に書かれている文化祭案内図を呆然と眺めた。お昼ご飯を兼ねて何か買ってみようかと考えながら、自分のお腹と相談してみる。隣にいるカップルは3年C組のチュロスを買いに行くらしい。チュロスも捨て難い。……うーん、あれもこれも食べたい。そう思うと、なかなか決まらない。

「————俺のイチオシは、チョコバナナ」
「……」
「トッピング無限。俺の努力の結晶」
「…………」

 隣でボソッとそう呟いた人物は、トッピングが全部で4種類あるということまで教えてくれた。しかも、それを実現するために多少の自腹を切ったらしい。そこまでしてまで行いたいトッピング無限とは、一体……。

「……4種類の内訳は何ですか」
「カラースプレー、アーモンド、マシュマロ、イチゴ」
「イチゴ?」
「うん。フレッシュなイチゴさん」

 声を弾ませながら、イチゴって美味しいよね。と呟いた人物……佐藤先生。その声の方向にやっと視線を向けると、いつもとは違う格好の先生が視界に入った。文化祭だからか、珍しくスーツを着てネクタイもビシッと締めているようだ。

 しかし……イチゴとは奮発(ふんぱつ)したものだ。それを聞けば自腹を切ったという話も妙に納得できる。だけど学校から割り振られる予算内では収まらないことくらい、計画の段階から分かっていると思うのだが。

「てか、佐藤先生って担任していたんですね」
「そうだよ。2年A組の担任」

 ふーん、と小さく頷きながら、掲示板の前から去ろうとUターンをする。チョコバナナ、買いに行ってみようかな。そう思い足を踏み出すと、背後から「待って」と小さく声が掛かった。
 消えそうなくらい小さな声。いつもの大きな佐藤先生の声からは想像もできないくらい(ささや)くような声で「特別教室棟の裏で待っていて」と一言呟いた。

「え?」

 疑問に思い聞き返すも、もうそこに佐藤先生は居なかった。ダッシュで掲示板の前を後にし、どこかに向かって走っていた。
 謎過ぎる言動に首を傾げながら私も歩き始める。どうせ行く宛も無い。ここは佐藤先生の言う通り、特別教室棟の裏に向かって待ってみることにした。



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