花と共に、あなたの隣で。
文化祭の喧騒から遠退いた特別教室棟の裏。
人があまり踏み入れないこの場所には、色とりどりの秋桜が咲き誇っている。赤、ピンク、白。風でゆっくりと揺れ動く秋桜が、何だかとても幻想的だ。
静かで、居心地が良い。軽く目を閉じると聞こえて来る鳥のさえずりが耳に優しく、心落ち着くような感覚がした。
「もーりの。大丈夫か」
「……佐藤先生」
閉じていた目を開けると、心配そうに顔を覗き込んでいた先生。その手には、トッピングが山盛りされているチョコバナナが握られていた。トッピング、最早バナナに乗っていない。平の受け皿に殆どが零れており、食べるのが少し難しそう。
「体調悪い?」
「いえ、鳥のさえずりを聞いていました」
私の隣に静かに腰を掛け、トッピング山盛りのチョコバナナを手渡してくれた。お礼を言って、手元に視線を落とす。主役の隣で自己主張をしている、丸々としたイチゴが4つもある。「本当はスライスして提供するのだが、ここは出資者の権限を使った」と先生は子供のような表情でそう笑った。
秋の爽やかな風が、私たちの頬をそっと撫でる。サーッと揺れ動く秋桜を横目に、貰ったチョコバナナにかぶりついた。カラースプレーに、アーモンドに、マシュマロ。そして、丸々としたイチゴ。自己主張をしていたのはイチゴだけでは無かったようで、口に入ってきたのは『チョコバナナ』ではなく、バナナ・チョコ・イチゴ・トッピングたちと、各々が激しく主張をしているだけの食べ物だった。
「いくら無限とはいえ、加減というものがありますね」
「でも永遠の夢じゃない?」
「そうですかね」
けれど、これはこれで美味しい。隣で食べるのに苦戦している先生にお礼を伝えながら、再度チョコバナナを頬張る。文化祭も1人で過ごす予定だったから、隣に先生が居てくれている状況が少しだけ不思議。だけど、心満たされる。