花と共に、あなたの隣で。


「……因みに。それと友達がいないこと。どう関係あるの?」
「友達が出来たら、悲しいでしょう。急にぽっくり居なくなっちゃうと、友達を悲しませるでしょう。だから、友達を作らないんです。だから……1人がいいのです」
「森野は……優しいんだ」
「優しいわけじゃないですよ。ただ逃げているだけだと、自分では思っています」

 チョコバナナを最後までかじる。平の受け皿に残ってしまったトッピングを指ですくいながら、音楽部の演奏に耳を傾けた。最近流行りのあの曲。スーパーなどでよく流れているのを聞くけれど、タイトルが分からない。

 隣に居る先生はまだ悲しそうだった。
 進まなくなってしまったチョコバナナを手に持ったまま、何かを考えているような様子。「チョコバナナ、貰っちゃいますよ」と冗談半分で言うと、本当に差し出されてしまったから調子が狂う……。

「……先生、そんな顔をしないで下さい。だから誰にも言いたくなかったのです」
「ごめん。あまりにもビックリした。だけど、納得したよ」
「?」
「向日葵の寿命が開花してから1週間だと話した時、森野のオーラが少し変わったこと。少しだけ、本当は少しだけ気になっていた」
「えっ」

 先生はそれ以上、何も言わなかった。

 補習という名のプール掃除の日。あの日、確かに少し動揺してしまった。だけど冷静を装っているつもりだった。
 自分では気が付かなかったけれど、寿命というワードに人一倍敏感になっているのだろう。


 (しばら)く2人で黙り込んでいると、急に手を叩いた先生。「よしっ」と言って立ち上がると、私の腕も引っ張った。

「フレッシュなイチゴさん、ゲットしに行こう」
「え、また!?」
「俺が出資者だから良いの~」

 先生に連れられ、特別教室棟の裏を後にする。徐々に近付く喧騒にまた非日常を感じ、不思議な気分でいっぱいになった。

 文化祭の会場に戻る一歩手前。先生は急に足を止めて振り返る。少しだけ涙が滲んでいるように見える瞳で、真っ直ぐ私を見つめて口を開いた。

「森野」
「……ん?」
「俺には何でも話してくれ」
「……」

 それだけ言って、急に走り出した先生。と言っても、いつもの10分の1くらいの速度で、ゆっくりと走っていく。その背中を私も追い掛けながら静かな校舎裏を抜け、騒がしい文化祭の会場へと戻って行った。



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