花と共に、あなたの隣で。
文化祭の時期には沢山の秋桜が咲いていたが、今はもう疎らになっている。秋桜の時期が終わり————秋が終わり、そうしてあっという間に冬が来る。
少し肌寒く感じる気温に身震いをしながら前と同じ場所にしゃがみ込んでみると、小さな虫が落ちていた食べ物を取り合っている様子が目についた。
どうしてこんなところに食べかすが落ちているのかが気になるが、小さな虫ですらこうやって取りあうのだから。人間同士が人を取り合って揉めるのも仕方ないのかもしれない。なんて、つい思う。
……大体、佐藤先生は誰の物でもないけれど。
「もーりの」
「っあ、先生……」
ホームルームを終えたであろう先生は、ペットボトルに入った紅茶を2本持って、小走りで私の方に駆け寄ってきた。「よっ」と言いながら隣に座り込み、紅茶を差し出してくれる。お礼を言って受け取ると、ニッと微笑んだ先生はペットボトルに口を付けた。
秋風が吹き抜ける。夏と秋の間の風は独特だ。これから冬に向かうのだと感じさせる空気や香りに、妙な懐かしさまで覚える。
「……でさ、どうしたんだよ。さっきの」
「そんなこと、私が聞きたいですよ。いつも通り学校に行ったら、机の上に置かれていたのですから」
「黒い薔薇が?」
「はい。黒い薔薇が……」
思わず、溜息が漏れる。
どうせ高校を卒業できないのだから、別にクラスメイトに何をされようがどうでも良いけれど。黒い薔薇は勘弁して欲しいし、このまま教室に通うのが億劫になってしまったら、わかば園の皆さんに合わせる顔が無い。
「私なんてどうせ死ぬんだから。わざわざ黒い薔薇を置いてアピールなんてしなくても良いですのにね。憎しみとか恨みってことでしょ? 面白すぎます」
自分を下げながらあくまでもポジティブに。波風は極力立てずに。
笑い話ですよ。そう先生に伝わって欲しくて、笑いながら言ってみた。