花と共に、あなたの隣で。


 1人校舎内に戻り、制服に着替えてから教室に戻る。誰もいない静かな校舎は、私だけの空間だと錯覚させた。

 教室からはグラウンドが見えない。肘を突いて窓の外を眺めるも、見えるのは体育館と教官室だけなのだ。


 ————あと、何回。ここから景色を眺められるのだろうか。


 最近、物思いに()けることも多くなってきた。
 記憶が無くなっていく感覚はまだ無い。だけど、妙に体は弱っているような気がしていた。


 本当に死ぬのかな。

 死にたくないな。

 高校だけは、卒業したいな。

 そう願えば願うほど、自身の病気をより一層自覚してしまう。


 先程外で見た山茶花。学校の敷地を囲う長いフェンスに沿って、ずらーっと植えられている。グラウンドからではそこまで分からなかったけれど、かなりの量が植えられているようだ。可愛い色合いに、可憐な花弁。山茶花の花言葉はなんだったか—―それがふいに気になり、スマートフォンで検索を掛けたりして。

 誰もいない教室は、居心地がいい。


「オラーッ!! 1年女子!! お前らもっと早く歩けよ!!」

 窓が閉まっているというのに、鮮明に聞こえてくる佐藤先生の大きな声。 

 最近、不思議に思うことがある。
 私の中で佐藤先生の声が、良く響くこと。

 他の先生や生徒の声は雑音くらいにしか思わないのに、妙に佐藤先生だけ、響く。

「よく分かんないな……」

 よく、分かんない。
 何もかも。

 思えば親に()(はな)されて施設に入れられた頃くらいから、何にも……何もかも。よく分かんない。

 自分のことが分からない人間が、分からないままここまで生きて来ただけ……。


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