花と共に、あなたの隣で。
「……」
「……未来ちゃん、入るよ」
「……」
部屋で何もせずに窓の外を眺めていると、静かに夏芽さんが入ってきた。両手で小さな花瓶を持っていて、その中には真っ赤なお花が生けられている。
「これ、椿。うちの庭から取ってきたんだ。未来ちゃんのお部屋に飾らせてね」
飾り棚に花瓶を置いて「良い感じ」と呟いた夏芽さんは、入口の近くに置いてある椅子に座った。夏芽さんは何か言いたげに一点を見つめていたけれど、何も言わずに口を閉ざしたまま……。
「……夏芽さん、どうしたの」
「いや……。あの、さっき。渡邊先生と一緒に後を追っていたからさ。聞いちゃったんだ、会話。悪いと思ったけど……」
1つだけ言わせて……。そう言った夏芽さんは、目に涙を浮かべながら言葉を継いだ。
「死ぬなんて、簡単に言わないこと……っ!!!! 今年もまた、短冊に願い事を書くのでしょ……!?」
それだけを言って立ち上がり、強く私の体を抱きしめた。
夏芽さん越しに窓を眺め、先程よりも強くなった雪を見る。死ななくて良いなら、死にたくない。佐藤先生だって、死ぬ必要が無い人。
「……死ぬって分かっているのに、死にたくないって願うのは、馬鹿馬鹿しくない?」
「……え?」
「それよりも、好きな人と一緒に死ねる方法を考えた方が建設的だよ」
「未来ちゃん……」
「だって。私も相手も、余命宣告されてるんだから」
意気消沈したように俯き唇を噛んでいた夏芽さんは、そのまま黙り込んでしまった。申し訳ないと思いつつ、今度は夏芽さんが置いてくれた椿を視界に入れた。
凛と咲く一輪の椿。
その力強い佇まいに、私もそうで無ければならないのに……と、客観的に自分を見つめてしまい、思わず笑いが零れた。