花と共に、あなたの隣で。
2.校庭に咲く菜の花
新緑が眩しく映り始める季節。半袖ハーフパンツにはまだ早いこの時期に、ジャージは着るなと言い放った人物。若干身震いをしながら臨むスポーツテストには、もはや絶望しかない。
50メートル走の平均タイムは8秒らしい。しかしそれを遥かに下回る私の足は、タンクトップにハーフパンツ姿の人物の笑い物にされる。
「森野、奇跡の足だ」
「……馬鹿にしてるんですか」
クックックと声を殺し気味に笑う人物は、記録表に何かを記入していた。50メートル、14秒。私は昔からそうだ。運動が苦手な私は絶望的に足が遅く、運動会や体育祭、持久走大会でも毎回最下位。勉強はそれなりにできるけれど、運動は本当に絶望的なのだ。
「佐藤先生〜、古沢が転けて血が出てる!」
「転けたくらい大丈夫だ。血も大丈夫〜」
遠くから聞こえて来た生徒の声に、全く根拠の無い言葉を返す人物。佐藤先生。そう言いながらも急いで記入を終えて、私に微笑んでから声の方に走って行った。
タンクトップが寒そうに思えるが、当の本人は汗でびっしょり。優しく差す太陽の光が、先生だけを異様に輝かせていた。