花と共に、あなたの隣で。
14.梅に希望を託したくて
「……」
「未来ちゃん」
「…………」
「……未来ちゃんってば」
私の定期検診の日。ナベの診察室にやってきたものの、私は何一つ言葉を発さなかった。
私より先に診察を受けていた佐藤先生は、案の定盛大に揉めたらしい。というか、佐藤先生が1人で怒っていたが正解だろうか。その一方でナベは、佐藤先生に対して何も言わなかったらしい。
「……未来ちゃん。血液検査の結果、かなり病気は進行しているよ」
「……」
「こんなこと言いたくないけれど。もう本当に先は長くないかも」
電子カルテに目を向けて、今日もカタカタとキーボードを打つ。だけど今日のナベは、そう言いながら涙を零していた。医者がそのような態度で良いのか。そう思いながらも、私は言葉を発さない。
ナベは本当に悲しそうだった。そして「未来ちゃんもだけど、佐藤さんはもっと悪化している」と呟くように言ったのだ。
……聞きたく無い。
佐藤先生がどうかなんて、ナベの口から聞きたくない。それが本音だった。
「未来ちゃん、戸野くんの件は本当に申し訳なかった。やり過ぎたと思っている。でもね、これだけは譲れない。僕は佐藤さんと距離を取って欲しい。そうでないと、本当に、本当に未来ちゃんが傷つくだけだから……!!」
「……」
「後天性の佐藤さんの方が、進行が早いんだよ!!」
「うるさーーいっ!!」
「!!」
ナベの言葉に耐えられず、つい叫んでしまう。同じ部屋にいた看護師たちも驚き体を硬直させ、みんなが私を見る。涙で目が潤んだままのナベも、酷く驚いたように固まっていた。
「うるさいよ、ナベ。もう、ここまで来たら良いじゃん。私も佐藤先生も悪化しているわけでしょ? なら、もう良いじゃん。死ぬ者同士、仲良くさせてよ」
「でも……っ!!」
「でもじゃない。良いの。前に言ったでしょう。私が死ぬ時、傍に居てねって話している。だけどそれが叶わないと言うのならば、一緒に死ぬ未来も有りだよねって。それに、仮に佐藤先生の方が先に死んでも良い。私は別に傷つかないよ。だって、直ぐに先生の後を追うのだから」
ゆっくりと椅子から立ち上がり、荷物置き場に置いた鞄を手に取った。そうしてナベの方を見ずに、吐き捨てるように言葉を継ぐ。
「私、佐藤先生と一緒にいる。ナベに何を言われても、戸野くんに邪魔をされても、絶対に離れない」
「……未来、ちゃん……」
ポロッとまた涙を零したナベは、悲しそうに俯き下を向く。それに対して何も言わずに診察室を後にした。
しかし、病気が進行しているとは。
体力の衰えから覚悟はしていたけれど、実際に指摘されると心がざわつく。そして、それ以上に佐藤先生の方が進行していること。その事実にまた、悲しみを覚えた。