花と共に、あなたの隣で。
翌日、いつも通り学校に向かうと、何やら教室の雰囲気が違った。
私が教室に入ると、シーンとなるクラスメイト。「え、何?」と小声で呟くと、戸野くんがゆっくりと近寄って来た。
「森野、おはよう」
「……おはよう?」
他の人がいる時には絶対話し掛けてこない戸野くん。彼が挨拶してきたことに驚いたが、それ以上にみんながこちらを見ていることに、もっと驚いた。
私、何かしたっけ……。
佐藤先生と仲が良くて一部の女子からいじめられている。それ以外に心当たりが無くて、少しだけ恐怖心を抱いた。
「な、何なの本当に……」
「……ごめん、森野。僕、君の病気のことをみんなに話した」
「…………」
戸野くんの言っていることが、理解できなかった。「ん?」と間抜けな声を漏らし、一生懸命に頭を回転させる。そうして、言われた言葉の意味をやっと頭で理解できた時「はぁ!?」と今度は大きな声が出たのだった。
「どういうこと。え、待って。何でそんなに勝手なことをするの? てか、私が病気ってこと、みんなが知る必要無くない? 何で、何で戸野くんはそんなにも自分勝手なの!? 私のこと、何も考えていないじゃん!」
「ちが……待ってよ!」
教室に入って数分。溢れ出す怒りを抑えきれなかった私はまた教室を飛び出した。黒い薔薇の時と同じ。また今すぐにでも帰ってやろうと思って職員室に向かう。
どうして戸野くんは、そんな勝手なことばかり……。私が何の為に友達を作らないようにしていたのか、その気持ちを知りもしないで。
湧き上がる怒りと苛立ちを隠さずに教室棟を出て、特別教室棟へ向かう。職員室に近付き担任の姿を探していると、扉付近で誰かがぼそぼそっと会話している声が聞こえてきた。
「——佐藤先生、今日は急遽病院でお休みらしいですよ」
「最近、体調が良くないとは言っておられましたよね」
「そうですね。何事も無ければ良いのですが。2年A組のホームルームには、副担任に向かうよう伝えておきます」
「お願いしますね」
先生2人がこちらに向かってきたら困ると思って、急いで物陰に隠れた。しかし2人とも職員室に入って行ったようで、顔は合わさずに済んだ。
「……病院、休み……」
どの先生が会話をしていのか分からないけれど、その話を聞いた私は急いで職員室前から走り去った。急遽病院……そんなの、体調が悪化したからとしか考えられない。
とはいえ、体力も限界に近い私。職員室前から玄関までの僅かな距離で息切れを起こし、ついその場に蹲ってしまう。
「……っ」
嫌でも実感してしまう衰え。死に向かう体に怒りすら覚える。悔しくて涙を滲ませながらも、私は自身の体に鞭を打ってまた歩き出す。
急いで学校を後にして、川内総合病院に向かった。
戸野くんのせいで教室に居たくない……というよりは、今は何よりも佐藤先生の元に向かいたい。率直にそう思った。