花と共に、あなたの隣で。
「————ナベっ!!」
「……え? 未来ちゃん?」
東棟にある脳神経内科の外来に向かい彷徨っていると、遠くから歩いてくるナベの姿が目に入った。深刻そうな表情をしていたナベ。私の姿を見つけると、一緒に歩いていた看護師を診察室に帰らせて、ナベ1人が私の元へ近寄ってきた。
「どうしたの、学校は?」
「……ねぇ、ナベ。佐藤先生は?」
「……」
「佐藤先生、来てるよね」
「未来ちゃん……」
「どこなの? 会いたい」
真剣な眼差しでナベを見つめるも、軽く首を振って拒否される。「患者同士の面会はできない」などと、訳の分からないことを言うナベに、無性に苛立ちを覚え始めた。
そこまでして私と佐藤先生を引き離したいのか。そう思えば思うほど、苛立ちが抑えきれない。
「未来ちゃんは学校に行きなさい。行ける時に行っておかないと」
「イヤ」
「何でよ」
「……佐藤先生の件は、後から知ったけど。どの道今日はサボる予定だった」
「だから、何で」
何でって……。大体、ナベが戸野くんに私のことを話したのがきっかけでしょう。戸野くんがクラスメイトに私のことを話したという事実。それをナベにも伝えるかを悩んだ。けれど、言ったところでナベには響かない。
私にとって、その戸野くんの行動がどれだけ辛いことかなんて、きっとナベには伝わらない。
「…………ナベには、言わない」
「何でよ、未来ちゃん!」
「うるさいな。全てナベのせいなんだから。戸野くんに私のことを話したのが全てだよ」
話にならない。
佐藤先生のことも教えてくれないなら、これ以上ナベと話すことはない。スっとUターンをしてナベの前から去り、私はわかば園に戻ることにした。
わかば園のナースステーションに着くと、朱音さんがギョッとしたような表情で「え、未来!?」と声を上げる。「学校は!?」と二言目にそう言った朱音さんは、パタパタと私の方に駆け寄ってきた。
「朱音さん、ごめんなさい。今日は休む」
「どうしたの?」
「病気のことを知ってる男子にさ、クラス全員にバラされた。私の病気のこと」
「え、何で!?」
「知らない。私が知りたい」
朱音さんの横を通り過ぎて、機械にカードをかざす。そして、そのまま部屋に戻って行った。
佐藤先生がこの病院のどこかにいるのに。どこにいるのか分からない。それがまた悔しいし、教えてくれないナベのことが憎い。
教室に居づらくなった原因を作った戸野くんも。誰も彼もが憎くて堪らない。
部屋に戻った私は乱暴に鞄を放り投げて、布団に潜り込んだ。もう、学校に行きたくない。今すぐにでも死んでしまいたい。
他の人からすれば『ただ、病気のことを話されただけじゃん』という感じかもしれない。だけど、私にとってはそうではない。私にとって病気を知られることは、公開処刑と同じ。誰にも知られたくなかった。知っているのは、ナベと佐藤先生だけで、良かった……。