花と共に、あなたの隣で。
「————もーりの」
「えっ!?」
暫く布団に潜り込んで考え事をしていると、突然開いた部屋の扉から、私を呼ぶ軽い声が聞こえてきた。その聞き覚えのある声に飛び起きると、ニコニコと微笑んでいる佐藤先生の姿が視界に入った。
「入ってもいい?」
「どうぞっ」
布団から飛び出して椅子を先生に差し出す。そして自身も椅子に座って先生の顔を見上げた。
青白い顔で微笑んでいる先生は、少し荒めの呼吸をして、ふぅ……と息を吐き出す。そして「しんどいね」と一言呟いて、鞄を床に置いた。
「先生、どうして私が部屋に居るって知っているのですか」
「……渡邊先生が教えてくれたよ。森野が学校サボってるって」
「……」
「どうしてサボっているのかな~??」
「ふふーん」
「答えなさいっ!」
腕を伸ばして私の頭に手を置き、わしゃわしゃと髪の毛を撫でられる。その手があまりにもひんやりとしていて驚いたけれど、先生は何も気にしていない様子だった。
しかし……。ナベが先生に私のことを話したなんて、益々ナベの考えていることが分からない。
私と先生の仲を引き離したいなら、黙っておくことだってできたはずなのに。
「……森野」
「はい」
「答えないと、筋トレさせるぞ?」
「え、イヤ!!」
今度は意地の悪そうな顔をした佐藤先生。その表情につい唇を尖らせながらも、私は今朝の出来事をきちんと話した。
教室に行くと戸野くんが話しかけてきて、そこでクラスメイトに私の病気をカミングアウトしたこと。それが辛くて、悔しくて、その場にいられなくて職員室に向かったこと。そして、そこで佐藤先生がお休みだと知ったということ。それら全てを先生に話した。
私が話している間、先生はずっと真顔だった。
何も言わずに固まり、何かを考えているような様子。考える中で何か不満が募っているのだろう……。どんどん眉間に皺が寄る先生が何だか面白くて眺めていると「……戸野、馬鹿だな」と小さく呟いた。
「戸野、大馬鹿だ。今度あいつの眼鏡壊してやる」
「……そういう物騒なのは止めて下さい」
ふふっと笑うと「笑いごとじゃねぇだろ」と怒り気味の先生。だけど、先生が私のことで怒っているのがまた嬉しくて、やっぱり笑いが止まらない。
「……なぁ、森野。ちょっと外行かない?」
「外?」
「うん。さっき外来駐車場から梅が咲いているのが見えたんだ。多分、中庭。一緒に見に行こうよ」
「……行きます」
少しよろけながら椅子から立ち上がる先生。その様子に不安を覚えながら腕を支える。そこで、ふと思い出した。
「あ、チェキ」
「チェキ?」
先生が安定したことを確認した私は、学校の鞄に入れていたチェキを取り出した。これで佐藤先生と一緒に写真を撮る。この存在を思い出せた自分に心で拍手をしながら、また先生の元に駆け寄った。
先生はチェキを知らなかった。「それ、何?」と不思議そうに聞くものだから「これはカメラですよ」と答える。「あとでどんなものか分かります」と言葉を継ぐと、嬉しそうに小さく頷いた。