花と共に、あなたの隣で。

15.笑顔を呼ぶ土筆と菜の花



「未来、今日も学校行かないの?」
「行かなーい」


 戸野くんがクラスメイトに病気のことをカミングアウトして数日。私は今もまだ学校に行っていない。
 佐藤先生は体調に不安を覚えつつも、どうにか学校に向かっているらしい。とはいえ、やっぱり時間の問題らしく、いつ何が起こるかは分からない状況らしいが。

 毎朝私を呼びにくる朱音さん。呆れたように「勉強遅れるよ、学校行かなきゃ!」と叫ぶのを無視して、私は頑なに学校には向かわない。

 大体、最近私の体がおかしいんだ。
 体力が落ちていることは分かっていたけれど、最近はより一層、衰えを感じている。

 認めたくないのに、認めざるを得ない。
 その現実を、受け入れたくない。


「……未来、学校には行ける時に行っておいた方が良いよ」
「え、死ぬから?」
「そうじゃなくて!」
「……朱音さん。クラスメイトに会いたくないから行かないってのもあるけれど、正直なところ、毎日学校まで行く気力も無いかも。体力がね、やっぱり落ちてる」
「……」
「嫌でも、死期を実感しているの」
「……っ」

 朱音さんは唇を噛みしめて、何も言わないまま部屋を後にした。

 最近、そういう人が多すぎる。
 私の言葉に何も返せず、その場を去ってしまう人。

 もしかしたら、私の返答が悪かったのかもしれないけれど。


「……ま、いっか」

 やることが無い今日は、学校の勉強をすることにした。
 休み始めて今日で1週間くらい?
 学年末とはいえ、そろそろ勉強に遅れが出てくる。

 私は持っていた5科目の問題集を開いて、復習や予習を行うことにした。



「……」



 問題集を開いて、少し思う。
 これ、どうやって解いていたっけ?

 特に数学が酷い。覚えていたはずの公式が思い出せず、教科書を見てもなんのことかサッパリ分からない。習って理解していたはずなのに、全く思い出せないのだ。

「……元々、知らなかったのかな」

 どうだったのか、それすらも思い出せない。
 そして()ぎる、“記憶能力欠乏症”の症状。どこからか分からないけれど、徐々に無くなっていく記憶。

 もしかしたら私は、勉強にまつわる記憶から無くなって行っているのかもしれない。生活する上ではそこまで影響のない記憶。だから余計に、病気が進行している実感が無いとか?

「……分かんないね」

 分からないけれど。この状況、非常に不味い気がした。確実に進行している病気。佐藤先生だけじゃない。私もちゃんと、悪化している。




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