花と共に、あなたの隣で。


「……未来ちゃん、学校には行きなさい」
「何で」
「……近いうち、行きたくても行けなくなる日が来るから。絶対やって来るその日は、現状だと回避できない。未来ちゃんには、後悔して欲しく無いからさ」

 その言葉に振り返り、やっとナベの方を向いた。鼻を(すす)り、漏れる嗚咽。ナベは鼻水まで垂らしながら、見たことが無いくらい大泣きをしていた。

「……ナベ、汚い。そこのティッシュで拭きなよ」
「未来ちゃん、僕は君のことをずっと見てきた。お願いだから、そろそろ言うことを聞いてよ」
「イヤ。私の言うことを聞いてくれない人はイヤ」
「……分かった。じゃあ、もう僕も言わせてもらうよ。未来ちゃんがその気なら、君にもう遠慮はしない」

 ナベはダンっと強く机を叩いた。そして見たことの無いくらい真剣な眼差しで睨むように見つめる。

 一瞬で空気感が変わった。さっきまでの優しそうだったオーラは消え、まるでそこには別人が居るかのよう。ナベは冷たい目をして、私のことを睨んでいた。

「僕は医者だ。患者には、医者の言うことを聞く義務がある。病状をより良くするため。あるいは、少しでも長生きをするため。あるいは、余命宣告を受けた患者が、余生をより良く過ごしてもらうため。医者である僕たちは、相手の状況を見て、様々に手を尽くす」
「……」
「ここだけの話、君が今の学校を卒業できる確率は5%を下回ったよ。それだけ悪化しているんだ。さっきの勉強の件もそう。言わなかったけど、君の記憶欠乏が始まっていたことを僕は知っていた。つまり君は、死に向かっている」


 あまりにも直球な言葉に、体が勝手に震えだして止まらなくなった。ナベも強い口調でそう言いながらも、腕は驚くほど震えていた。

 お互いに滲み出す涙。だけどナベは、冷たい目を止めない。


「……だから、君には年相応のことを経験して欲しかったし、自身のことだけでも大変なのに、同じ病気の患者と関わることで余計な心配を増やして欲しくなかった。……その僕の想いは、一切君に届かないけどね」
「……届くわけないよ。ナベだって、患者側の気持ちを分かっていないもん。言ったじゃん、友達作っても悲しくなるだけだって。だから、同級生と関わらないって」
「なら、佐藤さんとも距離を取りなよ」
「……最初こそ、佐藤先生だって急に絡んできて変な人だな、くらいにしか思っていなかったよ。だけど、佐藤先生は私のことを沢山気にかけてくれた。佐藤先生は最初からずっと、私に対して優しかった……。そんな彼だからこそ、同じ病気だと分かった今、それをお互いに共有したいと思うし、傍に居たいと強く願っている」
「だから……それが駄目だって」
「駄目じゃない!! 私は、佐藤先生のことが好きだから!! どうせ死ぬのなら、私は絶対に好きな人の隣に居ることを選ぶ!!」


 睨んでいるナベに負けないくらい睨み返して、部屋を飛び出す。「未来ちゃん!!」と大きな声で呼ばれるも、それすら無視して廊下を走ろうとした。




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