花と共に、あなたの隣で。
暫く4人で雑談をした後、「この後診察がある」と一言告げて去って行ったナベ。朱音さんも業務があるからと、ナースステーションに戻って行った。残された私と先生は、そのタイミングで一緒に外に出ることにした。
先生と手を繋ぎ、ゆっくりと歩く廊下。
静かに流れる空気に安心感を覚えつつ、やっぱり冷たい先生の手に少しの悲しみも覚える。
「ていうか、先生。今日はどうしてここに? まだこの時間、学校終わっていませんよ」
「……うん。やっぱり体調が悪いからさ。早退させてもらった」
「なら、早く家に帰って休まないと……」
「……俺さ。学校に来る気配のない、未来に会いたくて来たんだけど」
「……」
「本当に帰った方が良い?」
未来って……。初めて呼ばれた名前に心臓が飛び跳ねた。
今私が出せる全力で首を振り、隣の先生を見上げる。いつものように意地の悪そうな表情を浮かべている先生は「未来に会いに来た」と、再度同じ台詞を零す。
「……帰って欲しくないですよ。私、先生が来てくれて嬉しかったし、一緒に過ごしたいです」
「そう、良かった」
わかば園の玄関から外に出て、病院の敷地内を宛も無く歩き続けた。とはいえ、既に体力が無い私たち。ベンチを見つけては座って、休んで。ゆっくりと散歩をした。
途中、芝生エリアに生えていた菜の花が目についた。背丈を伸ばし風に揺れている菜の花だが、今年は本当に早い。去年はスポーツテストの時期に咲いていたことを先生に話すと「よくそんなこと覚えているな」と驚かれた。菜の花に近付き屈んで花を眺めていると、その付近で密かに生えている土筆も視界に入る。先生に向かって「天ぷら」と土筆を指差しながら一言呟くと、「天ぷら、食べたい」と微笑み、優しく頭を撫でてくれた。