花と共に、あなたの隣で。


 春の爽やかな風が吹き抜けていく。

 川内(せんだい)総合病院の東棟は、屋上が憩いスペースとして開放されている。
 私とみきさんはその屋上のベンチに座り毎日雑談する。それが私たちの日課となっていた。


 みきさんは本当に何も覚えていない。
 高校でのこと、何一つ覚えていない。


「最近、渡邊先生に漫画を借りたんだ。これがね、面白いんだわ」
「何の漫画ですか?」
「『転生したらアリだったんですけど!?』って漫画。……転生って、凄いよね。アリはちょっと微妙だけどさ、俺も余命の無い体に転生したいなって思った」
「みきさん……」
未来(みく)は何に転生したい?」
「……私は」

 ——私は、みきさんとまた出会えるなら、何でも良い。できれば、健康な体で。歳を取ってもずっと一緒に過ごせるような、幸せな…………。

「……」

 喉まで出てきたその言葉は飲み込んで、空を見上げた。滲んだ涙を見られないように軽く拭い、小さく唇を噛みしめる。

「……」
未来(みく)?」
「ふふーん。私は、アリかな!」
「え、アリなの!? ちょ、ならこの漫画を是非読んだ方が良いよ! 人生観変わるから!」

 楽しそうなみきさんの様子に涙が滲んだ。「みきさんもアリに転生しましょ」と呟くと「未来(みく)が言うなら……」と、真剣な表情で考え始めた。

 実際、転生先はアリでも何でも良い。
 私とみきさんが楽しく元気よく、長生き出来る世界線。そんな理想的な世界であれば、私は何になったって良い。

 いつか訪れたらいいのに。
 1人でそう願いながら、私はまた空を見上げた。





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