花と共に、あなたの隣で。

18.思い出の向日葵



「……」
「……」

 優しく匂う、新緑の風。
 みきさんと2人、屋上のベンチに座り体を寄せ合う。


 何度かみきさんの元を学校の先生が訪ねて来た。
 校長先生も、教頭先生も。色んな人が来たけれど、みきさんは誰1人として覚えていなかった。

 もう、復職は難しい。
 それが学校の見解だった。



「……未来(みく)
「どうしました?」
「向日葵って、開花してからの寿命は1週間らしいよ」
「…………え?」
「って、ふと思い出した。なんか昔、未来と話したことがあった気がして」
「……」


 向日葵が咲く時期にはまだ早い。
 それなのに、何の前触れも無く出てきた単語に驚いた。

 あの暑い夏の日。
 “佐藤先生”と一緒に食べた、ラムネ味のアイスクリーム。 

 夏休みの補習のこと、今の みきさんは間違いなく覚えていない。その事実にまた悲しさを覚え、涙が少しだけ滲んだ。

 だけど、私の記憶が欠乏していないことが救いだった。
 今もまだ鮮明に残る“佐藤先生”との記憶。絶対に失くしたくない、大切な……大切な記憶だ。



「ねぇ、未来」
「どうしましたか、みきさん」
「……未来」
「……」

 頬を摺り寄せ、甘えるような仕草をする。

 元々筋肉質だったと言われても誰も信じてはくれないほどに筋肉は落ち、痩せ細ってしまっている みきさん。高校のグラウンドで大きな声を張り上げて、寒くても半袖Tシャツにハーフパンツ姿で走り回っていた“佐藤先生”は、もうどこにも居ない。





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