花と共に、あなたの隣で。
「ねぇ待って、待って!! い、意味分かんない!! その流れは本当に意味分かんないって!!」
叫んだ勢いでまたよろけてしまい、その場に倒れてしまう。それでも、床に這いつくばりながら戸野くんの元へ向かい、こちら側に戻って来るよう叫ぶ。
「戸野くん、早まったら駄目だって! こっちに戻っておいでよ!! どうして、どうしてそうなるの!?」
普段は他の人も居るというのに、こういうときに限って私と みきさんしかいない。
体力が無い2人。みきさんは戸野くんが誰なのか分かっていなかったけれど、その行動に危険を感じてフェンスに向かっていた。
「森野、好きだよ」
「やめて!」
「森野、君と出会えて良かった」
「戸野くん!!!!」
ありったけの力を振り絞り、フェンスに飛び込んだ。
もう、夢中だった。
戸野くんの腕を掴むため、振り絞る力。
どこから出てきたのか分からない私自身の力でフェンスを乗り越えて、既に足を踏み外していた戸野くんの腕を掴む。
「森野、離せ!!!!」
「み……みきさーーーんっ!!!!」
「未来っ!!!!」
叫び、嘆き、騒ぐ。
左手で戸野くんを掴み、右手でフェンスを握るも、当然だが私にはもう限界だった。
唇を噛みしめ、口内に血の味が広がった時。
隣に現れた みきさんもまた、同じように戸野くんの腕を掴み、必死に唇を噛みしめていた。
「……バカ……。バーカ!!!!」
「み、みきさん!!!」
「佐藤……離せよ!!!!」
「離さない!!!!」
みきさんと一緒に私もありったけの力を振り絞り、2人で戸野くんを上に引き上げた。
そして、それと引き換えに落ちて行く私とみきさん。
終わった……。遠くなる戸野くんの姿を見ながら、そう思った。
「————あのなぁ、お前が誰だか知らねぇけどな……!! 命を粗雑に扱おうとする奴が、この世で1番大っ嫌いなんだよ!!!!!」
最期の力を振り絞り、まるで捨て台詞のような言葉を吐き出したみきさん。
どんどん遠くなる戸野くんはフェンスを握ったまま、こちらに向かって叫んでいた。
「さと……森野ぉぉぉぉ!!!」
落下していく中、みきさんと顔を見合った。
青白い顔で口から血を流している みきさん。
それなのに、清々しいほど良い笑顔を浮かべていた。
「未来、愛してる————」
みきさんの呟きが耳に入ると同時に、これまでの人生で味わったことない強烈な痛みが私を襲う。
痛い————その言葉では表せないくらい、痛い。
みきさんは腕を伸ばせば届く位置に居た。
限界を遥かに超えた身体に喝を入れ、少しずつ移動して みきさんの胸に自身の耳を近付ける。
びくともしない。
私自身も名前を呼ぶ気力が無い。けれど、消えそうな命の灯火を、どうしてもこの目で見届けたかった。
「こっちっ!! こっち!!」
「誰か、おい医者!! 早く来いよ!!」
続々と人が集まって来る。
段々と騒がしくなる私たちの周り。
聞こえて来る喧騒。
だけどそれらは、ここではないどこか。
遥か遠い場所から、聞こえて来るような気がした————……。