早河シリーズ序章【白昼夢】
午後4時[広間]

 美月とあかりは広間のソファーに座って談笑していた。久しぶりの再会に話が弾む。

「あかりちゃんがここに来るのは二年振りだよね。前に来たとき私は中学生だったもん」
「美月ちゃんも高校生かぁ。やっぱり前より大人っぽくなったよね。花の女子高生って感じ」
「そうかなぁ? でもあかりちゃんが羨ましいよ。大学は自由なイメージある。校則もないでしょ?」
「あははっ。確かに自由と言えば自由かもね。……あ、木村先輩と渡辺先輩だ」

 広間に隼人と渡辺が並んで入ってくる。あかりは立ち上がって二人の先輩を美月に紹介した。

「浅丘美月です」

美月も立ち上がり二人に会釈する。何か飲み物はいるかと尋ねると隼人と渡辺はアイスコーヒーを所望した。

 美月はアイスコーヒーの準備のためにキッチンへ、あかりも一緒についてきた。冷蔵庫からアイスコーヒーのボトルを出して二つのグラスに注ぐ。

「あの木村さんって芸能人みたいにかっこいいよね」
「うーん……まぁ、ね。木村先輩は高校時代はメンズ雑誌の読者モデルやっていたらしくて顔は良いのよね」

あかりの歯切れの悪さが気にかかる。ハキハキした物言いが多いあかりが言葉を濁すとは珍しい。怪訝に思いつつ美月はグラスを載せたトレーを持って広間に戻った。

 隼人と渡辺の前にアイスコーヒーのグラスとストロー、ガムシロップとミルクを置いた。

「どうぞ」
『ありがと。美月ちゃんは顔も名前も可愛いね』

ニコニコと笑いかける渡辺の軽いノリに戸惑う美月の横であかりは大袈裟に溜息をつく。

「渡辺先輩? 美月ちゃんに変なことしないでって言ったじゃないですか」
『まだ何もしてないだろー』
「まだって何ですか!」

あかりと渡辺の夫婦漫才のようなやりとりが可笑しくて美月がクスクスと笑っている。無表情にアイスコーヒーを飲んでいた隼人はズボンのポケットから煙草とライターを出したが、広間のテーブルに灰皿がないことに気付いた。

『ここって煙草吸える?』
「はい。ここは広間もお部屋も禁煙ではないのでご自由にどうぞ。……使ってください」

広間の棚の引き出しからアルミの灰皿を出して隼人に渡す。灰皿を渡した時、隼人と目が合った。

『ありがとう』

口元をわずかに上げて微笑する隼人に美月は一瞬で魅了される。
二重瞼の奥の瞳がとても綺麗だった。形のいい唇、整った鼻筋、シャープな輪郭。こんなに華やかな容姿の男性を美月は見たことがない。
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