早河シリーズ序章【白昼夢】
 ──佐藤の回想。

 8月6日、夜。窓際に立って夜の海を眺めていた佐藤の携帯電話が音を立てた。非通知と表示された画面を見ても電話相手が誰かは、佐藤には明白だ。

非通知の主は佐藤が絶対的な忠誠を誓っている、キングの名を持つ“あの男”だ。

『キング。あれは貴方が行ったのですか?』
{そうだよ。なかなかいい演出だっただろう?タイトルはSleeping Beauty……眠り姫だ}

昼間に棺に寝かされた美月を発見した時は生きた心地がしなかった。キングが美月を連れ去り、あんなことをしたのか理由が知りたかった。

『何故あのようなことを?』
{何か不満かな?}
『いえ……。ただ計画にはなかったことなので少々戸惑いました』

 籐の椅子に腰かけて佐藤は眉間を揉む。この数日間の肉体的疲労と精神的疲労の蓄積。
眠気で無意識に降りてくるまぶたを必死に上げた。

{それはあれだけではないだろう。イレギュラーな事態なら他にも起きている}
『さすがに刑事の来訪には参りましたね』
{おまけに土砂崩れで足止め。まったく君も運がないなぁ}

キングが笑っていた。佐藤にとっては笑い事ではないこともキングにしてみれば些末な事だ。

{なぁラストクロウ。君が一番想定外だった事は刑事の来訪でも土砂崩れでもないだろう?}
『……どういう意味ですか?』
{浅丘美月。彼女は面白い子だね。汚れを知らない純粋さ。彼女は我々とは対極の位置にいる。そうは思わないか?}
『キングの仰る意味がわかりませんが……』

取り繕った上辺だけの返答をしてその場をやり過ごす。
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