早河シリーズ序章【白昼夢】
 どうしてキングは美月に興味を持った? キングには美月の件を一言も報告していない。どこで情報を得て美月と自分の関係を知った?

{まぁいい。それより君にひとつ仕事を頼みたい}
『仕事の内容は?』
{間宮誠治を消せ}

口調こそ穏やかだがそこには絶対的な威圧感が宿る。

『それはここで彼を始末しろと?』
{そうだ}
『なぜ間宮誠治を?』

キングの溜息が電話越しに伝わる。いつも飄々としている彼が溜息をつくとは珍しい。

{間宮は小説のネタ探しか知らないが、組織の情報を嗅ぎ回っているようだ。非常に目障りでたまらない。うるさいハエは早いうちに始末する。それが私のやり方だ。君もわかっているよね?}
『理由はわかりました。しかし何も今ここで彼を消さなくとも……。刑事も居る中でリスクが大き過ぎます』

 間宮とは作家と編集者として友好を築いてきた仲だ。キングの命令であっても間宮をこの手で殺すことに躊躇いが生じていた。

{東京に戻れば間宮はさらに我々の情報を嗅ぎ回る。いずれは君と組織の関係も知れるかもしれない。そこで足止めをくらっている今が奴を殺す絶好の機会だ}
『ですがキング。無礼を承知で申しますが、間宮を消す役目は俺ではなくてもよろしいのでは?』
{浅丘美月がどうなってもいいのかな?}

キングの口から出た美月の名に佐藤の心臓が大きく音を立てた。

{君が間宮を消さなければ浅丘美月の命の保証はない}
『キング、それは……』

携帯を持つ手が震える。美月の命の保証……

 キングにとって殺人は容易い。そして彼の言葉はいつも有言実行。
人を殺すことに微塵《みじん》の躊躇いもないキングがその気になれば美月を簡単に殺してしまうだろう。

{答えはひとつだよ。ラストクロウ。浅丘美月か間宮か。どちらを殺し、どちらを生かす? 君には考えるまでもないと思うよ}

ラストクロウ。組織での自分の呼称が忌々しく感じられた。この呼称を名乗る限り、キングの命令には逆らえない。

『……わかりました』

 佐藤の答えをキングは最初からお見通しだった。彼が美月を守るために間宮を殺すと……
この命令には絶対に、逆らえないと……。


 ──回想 END─
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