早河シリーズ序章【白昼夢】
崖に沿って続くガードレールの手前で佐藤が立ち止まっている。彼は隠し持っていた折り畳みナイフを手にしていた。
ガードレールを背にする佐藤と彼を追い詰める上野との距離が少しずつ縮まる。
『上野警部、最後にひとつだけ教えてあげますよ。これはまだ序章、プロローグに過ぎない』
『どういうことだ?』
『いずれわかります。まだ幕は上がったばかりですから』
『幕?』
「佐藤さんっ!」
上野の呟きと美月の叫びが重なった。こちらに駆けてくる美月の隣には隼人がいた。
そう、自分がこの世から居なくなっても美月の隣には彼がいる。木村隼人、彼ならきっと美月のことを……。
『美月…ごめんな。幸せになれよ』
幸せにしてやれなくてごめん
一緒に居てやれなくてごめん
悲しませてごめん
君を愛したことに悔いはない
いつまでも、愛している
佐藤は東方向を見て口元を上げた。次の瞬間、鋭く耳を突き刺す銃声が鳴り響いて佐藤の身体はガードレールを越え大海原めがけて落下していく。
『佐藤!』
上野がガードレールの下を見るがそこに佐藤の姿はなく、青い海が波打つだけ。
「……佐藤さん……?」
美月は目の前で何が起きたか理解できなかった。美月の隣に立ち尽くす隼人も、佐藤を追ってきたその場にいる誰もが放心していた。
「刑事さん……佐藤さんは?」
『彼は……海に落ちたようだ』
力無く発する上野の言葉は美月には残酷な真実。
「嘘……嘘でしょ? だってさっきまで佐藤さんはここに立ってて……なんで? なんで……」
『美月ちゃん! 危ないっ!』
ガードレールからふらふらと身を乗り出す美月を上野と隼人が二人がかりで支えた。
「やだ……やだやだ離して! 佐藤さんは? 佐藤さんどこ行ったの?」
錯乱する美月を隼人は抱き締めた。どんなに抵抗されても爪で腕を引っ掛かれても隼人は彼女を離さず、震える背中を撫で続ける。
『落ち着け。佐藤は……海に落ちた』
彼は美月の耳元で先ほどの上野と同じ言葉を囁く。隼人の冷静な声を聞いて、もがいていた美月が動きを止めた。
そのまま電池の切れたロボットのように脱力した美月は隼人の胸元に顔を寄せる。
「……死んじゃった……の……? 佐藤さん、死んじゃった……?」
『わからない』
隼人にはそれしか言えない。美月は隼人に抱き締められながら泣き崩れた。
太陽で焼けたアスファルトの熱さも今の美月には伝わらない。
「嘘つき! ずっと側にいるって言ったじゃない! 来年の誕生日もお祝いするって……約束なんにも守れてないじゃない……ねぇ! 佐藤さん!」
空と海の青の境界線が消えた世界。波の音に乗って美月の悲痛な叫びが青い世界に響き渡った。
波しぶきが高く上がり海鳥の甲高い鳴き声が聴こえる。
ガードレールを背にする佐藤と彼を追い詰める上野との距離が少しずつ縮まる。
『上野警部、最後にひとつだけ教えてあげますよ。これはまだ序章、プロローグに過ぎない』
『どういうことだ?』
『いずれわかります。まだ幕は上がったばかりですから』
『幕?』
「佐藤さんっ!」
上野の呟きと美月の叫びが重なった。こちらに駆けてくる美月の隣には隼人がいた。
そう、自分がこの世から居なくなっても美月の隣には彼がいる。木村隼人、彼ならきっと美月のことを……。
『美月…ごめんな。幸せになれよ』
幸せにしてやれなくてごめん
一緒に居てやれなくてごめん
悲しませてごめん
君を愛したことに悔いはない
いつまでも、愛している
佐藤は東方向を見て口元を上げた。次の瞬間、鋭く耳を突き刺す銃声が鳴り響いて佐藤の身体はガードレールを越え大海原めがけて落下していく。
『佐藤!』
上野がガードレールの下を見るがそこに佐藤の姿はなく、青い海が波打つだけ。
「……佐藤さん……?」
美月は目の前で何が起きたか理解できなかった。美月の隣に立ち尽くす隼人も、佐藤を追ってきたその場にいる誰もが放心していた。
「刑事さん……佐藤さんは?」
『彼は……海に落ちたようだ』
力無く発する上野の言葉は美月には残酷な真実。
「嘘……嘘でしょ? だってさっきまで佐藤さんはここに立ってて……なんで? なんで……」
『美月ちゃん! 危ないっ!』
ガードレールからふらふらと身を乗り出す美月を上野と隼人が二人がかりで支えた。
「やだ……やだやだ離して! 佐藤さんは? 佐藤さんどこ行ったの?」
錯乱する美月を隼人は抱き締めた。どんなに抵抗されても爪で腕を引っ掛かれても隼人は彼女を離さず、震える背中を撫で続ける。
『落ち着け。佐藤は……海に落ちた』
彼は美月の耳元で先ほどの上野と同じ言葉を囁く。隼人の冷静な声を聞いて、もがいていた美月が動きを止めた。
そのまま電池の切れたロボットのように脱力した美月は隼人の胸元に顔を寄せる。
「……死んじゃった……の……? 佐藤さん、死んじゃった……?」
『わからない』
隼人にはそれしか言えない。美月は隼人に抱き締められながら泣き崩れた。
太陽で焼けたアスファルトの熱さも今の美月には伝わらない。
「嘘つき! ずっと側にいるって言ったじゃない! 来年の誕生日もお祝いするって……約束なんにも守れてないじゃない……ねぇ! 佐藤さん!」
空と海の青の境界線が消えた世界。波の音に乗って美月の悲痛な叫びが青い世界に響き渡った。
波しぶきが高く上がり海鳥の甲高い鳴き声が聴こえる。