早河シリーズ序章【白昼夢】
 静岡県警の到着と共に上野の部下の早河刑事と香道刑事が佐藤の転落地点に到着した。

『どこから狙撃したんでしょうね』

 早河刑事は海と空の青色が続く世界を見渡す。海では捜査員を乗せたボートが海に消えた佐藤瞬の捜索活動にあたっていた。

『俺から見て左方向、東の地点から狙撃されたのだと思う』

目の前で犯人を取り逃がした。刑事としてやるせない思いに押し潰されそうな上野は煙草をくわえて東の空を見つめている。

『だとすると狙撃犯は相当な腕の奴ですよ。肉眼ではこの付近で狙撃に使えそうなポイントは見当たりません』

香道刑事も東方向を見るが、そちらには木々の茂る崖と灯台があるだけで他には何もない。

『この辺りは潮の流れが速いので遺体が見つかる方が奇跡的かもしれません』

 静岡県警の刑事が上野に告げる。
何者かに狙撃され海に落ちた佐藤瞬の遺体捜索のために海上保安庁にも協力を要請した。だが県警の刑事の言うようにこの近辺の海は潮の流れが速く、佐藤が見つかることは奇跡に近い。

 諦めの空気が刑事達の間に漂い始めた頃、早河刑事の携帯電話が鳴った。着信表示は非通知。その文字に早河は嫌な予感を感じた。

『……もしもし』
{幕はまだ上がったばかりだ}

機械的で奇妙な声が聞こえた。相手は機械で声を変えていて声の主が男か女かもわからない。

『誰だ?』
{私の正体はこれからわかってくるさ。まだまだこれから。楽しみにしているといい}


 ──キングは通話終了のボタンを押すと双眼鏡を覗きながら愉しげに呟いた。

『さぁて、早河くん。問題だ。私は誰でしょう?』


第四章 END
→第五章 夢と現実の狭間 に続く
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