早河シリーズ序章【白昼夢】
 この研究室には菜摘以外の人間も出入りするが、他の学生や教授達はまだ実験の最中で部屋には姉と弟の二人きり、誰にも邪魔されることなく隼人は話を終えた。

「そう。まだ高校生なのにその美月ちゃんって子、かなり辛いでしょうね」
『姉貴。俺はどうすればいい?』
「隼人はどうしたいの?」

間髪入れずに聞き返されて隼人は戸惑う。

『どうしたいって、それがわかんねぇから聞いてんだろ』
「隼人が本気でその子が好きなら自分の気持ちの向くままに動けば?」

悩む弟に助言する姉の声は明るい。

「犯人の……佐藤さんだっけ? その人がどうして隼人に美月ちゃんを託したんだと思う? 隼人なら美月ちゃんの力になってくれると思ったからだよ。隼人だから大切な人を託せると思ったんだよ」
『けど俺に何ができる? あの子が好きなのは俺じゃねぇんだぞ』
「それでも、このまま何もしないでウジウジ黙って終わるなんてこと隼人ができるわけないでしょー? ダメならダメで、当たって砕ければいいんだよ」
『砕けたら困る』

 隼人の冷静なツッコミに菜摘が笑う。本当に血の繋がった姉弟かと疑うほど、いつも冷静な隼人に比べて姉の菜摘はいつも陽気だ。

「あははっ! そりゃそうだ。ま、砕けないように頑張りなさい。でもね隼人、どうしたいのかわからないなら今の隼人ができることを考えればいいの。隼人が美月ちゃんのために何ができるのかをね」

楽天的で気ままな姉はごくたまに的確な発言をする。

(姉貴がまともなこと言うのって閏年並みに本当にたまーにだけど。今回は相談してよかったのかもしれない)

『俺が美月ちゃんにできること……か』


< 109 / 154 >

この作品をシェア

pagetop