早河シリーズ序章【白昼夢】
 隼人の車が目的地に到着する。中学校の学校名が書かれた校門を潜り抜け、駐車スペースで車は停車した。

「中学校?」
『俺の母校。ほら行くぞ』
「あっ……はいっ!」

美月は隼人に続いて車を降り、彼の後ろをついていく。両側の花壇に鮮やかな夏の花が咲き乱れる通路を通って、芝生のグラウンドに出た。

『おお、木村ー』

 ジャージ姿の中年の男がグラウンドに入ってきた隼人を手招きしている。

『筒井先生、遅くなりました』
『みんなお待ちかねだ。俺よりもお前の指導の方がいいらしい。おや? お前が彼女連れて来るのは珍しいな』

男は隼人の後方にいる美月に目を留めた。美月は筒井に頭を下げた後もキョロキョロと辺りを見回したりと落ち着かない様子だ。

『違いますよ。彼女なんて言うとこの子に怒られますよー。気晴らしに連れて来ただけです』
「あのぅ……木村さん。付き合って欲しい所ってここ?」
『そう。あそこでサッカーの練習してるだろ? 俺、ここのサッカー部のコーチやってるんだよ』

 隼人が指差した先にはグラウンドでボールを追いかけている男子中学生達の姿があった。

「コーチ? 木村さんが?」
『なんだよ。そんなに意外?』
「だってスポーツは得意そうに見えるけど絶対インテリ系だと思ってたので……」
『これでも高校の時はサッカーの都大会レギュラーでしたよ?』
「すっごい。なんかますます無双な人ですね」

得意げに笑う隼人は美月をグラウンドの端のベンチに連れていく。ベンチの上には大きな木があり、木陰が出来ていた。

『俺は着替えてくるからここでゆっくり見物してて』

 美月をグラウンドに残して隼人は校舎内にある更衣室に向かった。
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